おやぢの部屋2
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DURUFLÉ/Requiem
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Sarah Breton(MS), Erick Mahé(Bar)
Michel Bourcier(Org)
Gilles Gérard/
Maîtrise de la Perverie Nantes
ATELIERS DU FRESNE/300 023.2



輸入盤などは、殆ど代理店を通じて日本国内で買えているつもりになっていますが、実はまだまだ外国だけでしか入手できないというレーベルは沢山あるはずです。いや、現実に、かなりレーベルと親密な代理店でさえ、全てのアイテムを国内で扱っているわけではありませんからね。そんなことを実感させられたのが、「ユビュ王の食卓」さんのブログです。デュリュフレのレクイエムに関してはくまなく入手したつもりになっていても、まだまだ取りこぼしはあったのですね。早速レーベルのサイトから入手、録音は2001年と決して新しくはないのですが、強引に新譜扱いです。
演奏しているのは「ラ・フォル・ジュルネ」でつとに有名なフランス西部の都市ナントで活躍している聖歌隊です。実際、その音楽祭にも何度も出演していますから、なかなかの実力の持ち主のようですね。楽譜は第2稿のオルガン版、ナントのノートル・ダム教会での録音です。
ここで使われているその教会のオルガンは、まさにフランス風、さまざまな音色を持つリード管や、トレモロを作り出す機能なども備えた、かなり大きな楽器です。それが、この教会のアコースティックスの中で響き渡るさまは、まさに絢爛豪華、ヘタなオーケストラを遙かにしのぐ豊かな音色を楽しませてくれています。ただの楽器ではなく、とてつもなく人間的な暖かさを感じさせてくれるのは、そんなオルガンと、演奏しているブルシエのたぐいまれなセンスの賜物でしょうか。
そして、合唱の、なんともユニークなキャラクターには圧倒されずにはいられません。一応成人の混声合唱ですが、女声の発声はとても自然で、まるで少年のようにすら聞こえてきます。30人足らずという編成にもかかわらず、教会の響きにも助けられて、とても力強い豊かなエネルギーが感じられます。それは、あるいは合唱団としてのまとまった響きを作り出すと言うよりは、それぞれのパートの持つ力を徹底的に見せつける、といったようなふうにも聞こえてきます。
そんな合唱団が歌うデュリュフレのレクイエムでは、したがって、この曲のモチーフとして使われている単旋律のチャントが、とてもはっきり(ちゃんと)浮き出てきて、まさに本物のプレイン・チャントを聴いているような錯覚に陥ってしまうほどです。これは、ちょっと新鮮な体験でした。「近代合唱曲」の、あくまで素材に過ぎないと思っていたものが、ここでは堂々とその存在を主張していたのですから、まさにこの曲の新しい側面を見せつけられたような思いです。
例えば、「Introït」で男声が歌い出す「Requiem~」という単旋律の引用は、おそらくデュリュフレ本人が考えていた以上の強い「力」を、ここでは放っているはずです。それを受ける女声のヴォカリーズも、もはやハーモニーの補助としてではなく、もう一つのチャントとしての役割を与えられているようには、感じられないでしょうか。
そんな風に、音楽はあくまで各パートごとの「横の」流れの集まりとして、進んでいきます。そこでは、ホモフォニックなハーモニーの動きなどは、殆ど念頭にないようにすら思われてしまいます。確かに、これだけ残響の豊かな録音会場では、そんなハーモニーの移ろいなどは、重ね合う響きの中に埋もれてしまうことでしょう。もしかしたら、これはそんな音響が産んだ音楽の作り方だったのかもしれませんね。
そんな文脈の中では、ここで登場するソリストたちはいささか分が悪くなってしまいます。特に、まるでアルトのような深い響きを持つメゾ・ソプラノのブレトンの、深すぎるビブラートがもたらすドラマティックな世界は、合唱が作り上げた透明な豊饒さとは微妙に異なる世界のように思えます。そこでオブリガートを担当しているチェロのような、ある意味静謐なテイストが、ここでは求められていたのではないでしょうか。
by jurassic_oyaji | 2008-07-01 23:33 | 合唱 | Comments(0)