おやぢの部屋2
jurassic.exblog.jp
ブログトップ
WAGNER/Der fliegende Holländer
c0039487_2043127.jpg

Hans Sotin(Bas), David Pittman-Jennings(Bar)
Christiane Libor(Sop), Endrik Wottrich(Ten)
Antoni Wit/
Orkiesta Symfonicza i Chór Filharmonii Narodowej
CD ACCORD/ACD 143-2



一般に「ワルシャワ・フィル」と呼ばれているポーランドの名門オーケストラは、正式には「ワルシャワ国立フィル」というのだそうですね。さらに、これが母国語の表記になると単に「国立フィルハーモニー」となるということで、なかなか渋いものがあります。2002年から音楽監督に就任したアントニ・ヴィットとともに、NAXOSあたりには多くの録音を行っているのは、ご存じのとおりでしょう。
そんなヴィットとワルシャワ・フィルのコンビが、オペラハウスではなくコンサートホールで行った「オランダ人」の演奏のライブ録音です。「ホール・オペラ」としての公演なのか、あるいは衣装などは着けない(あ、「裸で」という意味ではありませんよ)コンサート形式の演奏なのか、ということは、ポーランド語とドイツ語だけで書かれたライナーノーツからは、知ることは出来ません。
何も知らずに聴いたら、ピットの中に入っているオーケストラかと思われるほどの、なんともモヤッとした音には、一瞬たじろいでしまいます。特にティンパニの、あたりのことを全く考えていないような盛大な、というか、乱暴な響きは、お粗末な録音スタッフのせいなのでしょうか。
そんな、とてもステージ上のオーケストラとは思えないようなひどいバランスではありますが、それを我慢すれば、ヴィットがここで目指しているものはかなりストレートに伝わってきます。おそらく彼はオペラを専門に演奏する指揮者ではないのでしょう。ここには「ドラマ」を造り上げる、というよりは「音楽」をきっちりと演奏することによって、自ずとその中から「物語」の形を浮かび上がらせる、といったような姿勢を感じとることが出来ます。
ソリストたちの歌は、そんな流れで、ストーリー展開をあまり意識していない分、それぞれのアリアを独立して楽しめることになります。オランダ人役のピットマン・ジェニングスは、このロールにはちょっと合わないような滑らかなバリトンですが、過剰にドラマティックな歌い方を避けたせいで、あまり暗くなりすぎない歌を楽しむことが出来ます。ゼンタ役のリボールも、のびのびと歌っている感じ、「ゼンタのバラード」(もちろん、ト短調バージョン)も、悲壮感や切迫感とは殆ど無縁な、純粋にソロと、そして女声合唱とのアンサンブルを楽しむための音楽になっていたのでは。
ソリストの中での最大の収穫は、エリック役のヴォットリッヒでした。力強さと甘美さを兼ね備えた上に、音楽のフォルムをきちんとコントロール出来る賢さも併せ持つという逸材ではないでしょうか。ここでエリックが歌う2つのアリアは、いずれも格別に魅力的でした。
同じような姿勢は、合唱にも感じられます。特に最近のように、合唱団にまで複雑な「演技」(もしくは、「振り」)が要求され、つい歌がおろそかになってしまうという本末転倒状態が起こりがちなオペラのステージとは違い、ここではきちんとした「音楽」を伝えられるまともな「合唱団」として聴くことが出来ます。それが端的に表れているのが、第3幕冒頭の「水夫の合唱」。正直、今までこのノルウェー(あ、初稿ではスコットランドでしたね)の船乗りたちの合唱は、単なる場つなぎの音楽としか思えていなかっただけに、ここで聴ける「音楽的」な演奏にはちょっと感激しているところです。本当は、こんな美しい音楽だったんですね。
幕間なしで演奏する本来の形を取っているために、2時間半という長丁場を休憩なしで体験するという、お客さんにとっては大変なコンサートとなりました。しかし、その間緊張感を持続させたまま充実した音楽を提供していたヴィットには、もしそこに居合わせたとしたら、その声がしっかり録音されているお客さんと一緒にきっと本気で「ブラボー」と叫びたい気持ちになっていたことでしょう。
[PR]
by jurassic_oyaji | 2008-07-31 20:06 | オペラ | Comments(0)