おやぢの部屋2
jurassic.exblog.jp
ブログトップ | ログイン
SCHANDERL/Lux Aeterna
SCHANDERL/Lux Aeterna_c0039487_20422418.jpg



Jan Lukaszewski/
Polski Chór Kameralny
CARUS/83.416



このCARUSというレーベルは、もちろんシュトゥットガルトにある有名な楽譜出版社が母体となっています。ここで出版されている楽譜をCDにしてリリースするという、同じ街にあるHÄNSSLERと同じような役割を担っているのでしょう。主に合唱曲の分野で非常に良質の演奏のものを提供してくれており、どれを買ってもまず失望させられることはないという、希有なレーベルです。
今回のニューリリース、ハンス・シャンデルル(シャンダール)という照明器具のような(それは「シャンデリア」)名前のドイツの作曲家の無伴奏合唱作品を集めたアルバムも、まさに期待通りの素晴らしいものでした。いや、実はそれどころではなく、これからも末永くつきあっていけるかもしれないとびっきり相性の良い恋人にでも出会えたような新鮮な喜びに浸っているところです。
1960年に生まれたシャンデルル、非常に好奇心の旺盛な人だったようで、普通の音楽教育だけでは飽きたらず、トルコやインド、そしてアフリカのギニアなどで、積極的に非西欧の音楽を吸収することに務めます。そんなバックボーンが作品として結実したものが、このアルバムの中のアフリカ音楽にインスパイアされた「Stimmen von Innen」(最後の部分だけ)、「Bazar」、「Mambo Kaluje」、「Kiris Bara Bari(キリストは生まれた)」、「Wunderbar」といった曲たちです。そこには、アフリカ音楽の一面だけを様式化した「ミニマル・ミュージック」とは根本的に異なる、アフリカ音楽そのものが持っている「力」と「楽しさ」が見事に反映された姿を見ることが出来ます。生命の躍動感がストレートに現れたそのリズムを聴いているだけで、体中からあふれ出てくるエネルギーを感じないわけにはいきません。それは、まさに音楽の根源であるエンタテインメントを、理屈ではなく感覚的に直接心の中に送り込んでくるものです。「Wunderbar」あたりには、「ヴォイス・パーカッション」なども用いられていて、魅力は尽きません。ソロとの掛け合いの妙や、さまざまな情景が登場する「Mambo Kaluje」などは、コンクールの自由曲などに使ったら、さぞや喝采を浴びることでしょう。
これらの曲、もちろん「合唱曲」としてきっちりと五線紙に記譜されたもののようです。ほんと、あの微妙な音程やソロのニュアンスなど、どんな風になっているのか、楽譜を見てみたい気がしますが、それをここで歌っているポーランド室内合唱団のメンバーは、そんなことを全く感じさせない、まるで口伝えで歌っているかのような生き生きとした演奏を繰り広げています。そこからは、まさに作曲家が込めた思いが楽譜などを通り越して伝わってくる思いがします。
そのような、決して「クラシック音楽」の枠にはとらわれない表現は、他の曲にも見ることが出来ます。「Rosa das Rosas」という作品は、中世の吟遊詩人の曲のようなテイストを、そのまま現代の合唱曲として再現したものです。ここでは、合唱団は発声までも地声丸出しのものに変えて、すっかり「中世」コスプレで迫っていますよ。
さらに、全く傾向の異なる、まるで昔のシンプルな民謡のようなものを作り出すことも、シャンデルルはやってのけています。「Es saß ein schneeweiß Vögelein」や「Schwesterlein, wann gehen wir nach Haus」などがそんな曲、まさに現代に蘇ったマドリガルです。
ですから、タイトルのような宗教曲を聴く時でも、そこからは新鮮な驚きを期待して裏切られることはあり得ません。唯一この曲だけがオルガン伴奏の入った「Lux Aeterna」、そのオルガンはまるで合唱の一部と化して、壮大なクライマックスを造り出しています。同じタイトルの、あのリゲティの名曲とも肩を並べる、素晴らしい作品に立ち会えたことに、誰しも喜びを隠すことは出来ないはずです。素晴らしい演奏と相まって、このアルバムでは、現代の合唱作品の到達した最良の姿を聴くことが出来ますよ。こんな恋人、ぜひ皆さんに紹介したいと思うじゃないですか。
by jurassic_oyaji | 2008-08-22 20:43 | 合唱 | Comments(0)