おやぢの部屋2
jurassic.exblog.jp
ブログトップ | ログイン
CIMAROSA/Atene Edificata
CIMAROSA/Atene Edificata_c0039487_2032939.jpg


Francesco Quattrocchi/
Schola Cantorum San Sisto
Alio Tempore Ensemble
BONGIOVANNI/GB 2428-2



モーツァルトが活躍していた頃には最も人気のあったオペラ作曲家、ドメニコ・チマローザは、ウィーンの宮廷楽長に就任する前、1787年から1791年までロシアのエカテリーナ二世の宮廷楽長として、サンクト・ペテルブルクに滞在していました。そんな「ロシア時代」のチマローザの珍しい作品が、初めて録音されました。
このCDに収録されている「アテネの建都」というカンタータは、1788年に作られたもので、3人のソリストに合唱とオーケストラが付くという編成です。演奏に1時間以上を要するこの曲は、フェルディナンド・モレッティの台本によるもの、テーマはタイトルのようにギリシャ時代の物語ですが、実際には登場する人物のうちのアラウロとチェクローペという2人の主人公は、女帝エカテリーナと、その愛人であるポチョムキンを模しているものでした。モーツァルトの「シピオーネの夢」みたいな、庇護者に対する音楽家のゴマすりですね。
余談ですが、エカテリーナ女帝は、公式にはピョートル三世の后でしたが、この2人の夫婦関係は完全に破綻していたといいます(彼には男性としての能力がなかったのだとか)。そこで、夜な夜な愛人を寝室に招き入れるという、逆大奥状態の女帝、しかし、そんな多くの愛人の中でクリミア総督のグリゴリー・アレキサンドロヴィッチ・ポチョムキンだけは、真に彼女の心をとらえ、政治的にも信頼を寄せられていた人物でした(極秘に結婚していたという説もあります)。女帝より10歳年下のポチョムキン、その関係は彼が亡くなる1791年まで続きました。
このポチョムキンは音楽には大変造詣が深く、パイジェッロを始めとして、多くの作曲家から曲の献呈を受けています。このチマローザの新作も、彼は非常に気に入ったということです。しかし、肝心の王妃の方はというと、前任者だったジュゼッペ・サルティあたりの方がお気に入りだったようで、チマローザのことはそれほど評価していなかったようですね。
実はこの曲は、世界初録音にあたって日本人の音楽学者山田高誌さんが楽譜の校訂をして世に送り出したものです。同じように山田さんが校訂したものを、同じ指揮者が同じレーベルに録音した以前のCDでは、その演奏者たちのあまりのレベルの低さにがっかりさせられたものでした。ただ、今回は同じ指揮者でもオーケストラも合唱団も全く別の団体ですから、そんなことはないだろうという期待を持って聴き始めます。確かに、最初のシンフォニアでは、実に生き生きとした音楽が聞こえてきたので、まずは一安心、にぎやかな部分が終わって弦楽器が登場すると、さすがに人数が少ないせいかやや雑なところが目立ってしまいますが、エスプレッシーヴォなどもきちんと伝わってくる聴き応えのあるものでした。ただ、後半にタランテラのようなリズムに変わるあたりは、もっとテンポが速くてもいいのにな、という感じはします。
しかし、2曲目になって合唱が登場すると、彼らの演奏に対する姿勢は、前作と何ら変わっていなかったことに気づかされます。この合唱の、なんというやる気のなさ。
その後は、ソリストによって、とても美しいレシタティーヴォやアリアが歌われます。特に、最後のアラウロとチェクローペによる二重唱には、今までは入っていなかったクラリネットが新たに登場して、素晴らしいオブリガートを披露してくれます。それは、まさにさまざまな楽想が次から次へと現れるという心躍るような二重唱なのですが、なぜか素直に音楽に浸れないもどかしさがあります。それはおそらく、指揮者のテンポ感の悪さなのでしょう。歌手たちのモタモタした歌い方にオケを合わせているうちに、どんどんテンポが遅くなっていくのですよ。音楽の美しさを全く殺してしまっているこの生命感のない演奏、本来なら知られざる曲によって新たな感動が得られるはずのものが台無しになっているのが、本当に残念です。
by jurassic_oyaji | 2008-08-28 20:33 | 合唱 | Comments(0)