おやぢの部屋2
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KILAR/Magnificat
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Izabella Klosinska(Sop)
Tomasz Krzysica(Ten), Piotr Nowacki(Bas)
Miroslaw Jacek Blaszczyk/
The Silesian Philharmonic Symphony Orchestra & Choir
DUX/DUX 0592



ワイダやポランスキなどの映画には欠かせない音楽を作ったことでつとに有名なポーランドの作曲家、ヴォイチェフ・キラールが2006年に作った最新の「純音楽」作品の世界初録音です。古くから多くの作曲家によって作られてきた「マニフィカート」のテキストを用いて、3人のソリストと合唱、そしてオーケストラという編成、全部で7つの楽章に分かれた50分ほどの作品です。
現代の作曲家の場合、このような大規模な作品はどこかからの委嘱があって初めて作られるものなのでしょうが、この曲の場合はそのような外部からの要因ではなく、純粋に「自分の心のままに」作られたということです(ちょっと異色)。その事だけで、なにか尊敬出来るような気にはなりませんか。
キラールの作曲技法の原点は、かなりシンプルなもののように思えます。私見ですが、おそらくそれは映画音楽に長く携わっていたことと無関係ではないでしょう。最初の音が出た瞬間にその場の状況を的確に表現するという、まさに少ない音に込めた熱い思いのようなものが、この曲にも満ちあふれています。
オーケストラの音色は、シーンによってはっきり異なった設定になっています。全ての楽器が一斉に演奏することは殆どなく、ある時は金管楽器によるコラール、ある時は弦楽器によるメディテーションといったように、そこに広がるのは渋いモノトーンの世界です。だからこそ、5曲目の「Fecit potentiam」でほんの一瞬木管が加わるだけのクライマックスが、とびっきりの華やかさを見せるのでしょう。
しかし、この作品での主役は、あくまで合唱とソリストです。1曲目の「Magnificat」で、その合唱の存在感はまざまざと見せつけられることになります。金管のファンファーレと、弦楽器のアジテーションに続いて現れるのは、まるでプレーン・チャントのような短いフレーズの繰り返し、ただそれだけのものから、なんという力強いメッセージが伝わってくることでしょう。ここで演奏している合唱団は、決して洗練された音色や響きを持っているわけではないのですが、その集中力の高さは相当なもの、音程も確かですから、ユニゾンからハーモニーに移ったときには、ハッとするほどの魅力を発することになります。
2曲目「Magnificat anima mea Dominum」の主役はソプラノのソロです。ここで歌っているクウォシンスカという人は、暗めの音色の太い声、最初の音をずり上げるという変なクセがありますが、声自体は力にあふれています。そんな彼女が、ハープと弦楽器による、まるでマーラーの交響曲の緩徐楽章のような陶酔感あふれるオーケストラの単純なパターンに煽られながら徐々に盛り上がりを重ねていくのは、確かな興奮を誘われる光景です。
4拍子単位の、シンプルなリズムで重々しく押し通される中にあって、最後から2番目の「Esurientes implevit bonis」では3拍子の軽やかなリズムが現れます。しかも、最後の部分では5拍子という変拍子まで登場、見事なアクセントとなってひとときの爽やかさを見せてくれます。続く最後の曲は最も長い楽章で、さまざまな場面が現れます。金管のコラールが見せるポリフォニーがひとしきり鳴り響いた後に訪れるのは、この作品の中で唯一不協和音に支配されたオーケストラのカオスです。今までの心地よい和声の中にあっては、これはまさにショッキング、しかし、最後は期待通りの美しい和音で終わります。
大編成の曲なのに、それぞれのパートをバランス良くミックスした録音は、とても素晴らしいものです。ホールの中に響き渡る力強いハーモニー、それは、なんの作為もなく心の中にしみこみ、勇気のようなものを与えてくれました。ふと、信じていた人に裏切られた時などには支えになってくれるのでは、などという思いが唐突によぎったのは、なぜでしょう。
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by jurassic_oyaji | 2008-09-27 22:25 | 合唱 | Comments(0)