おやぢの部屋2
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2009年 07月 04日 ( 1 )
「マエストロ、それはムリですよ…」~飯森範親と山形交響楽団の挑戦~
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松井信幸取材・構成
飯森範親監修
ヤマハミュージックメディア刊
ISBN978-4-636-84653-9


だいぶ前のことですが、人気番組「トリビアの泉」にクラシックのオーケストラが出演したことがありました。その時のトリビアは「クラシック音楽には楽譜に『指揮者が倒れる』という指示が書かれた曲がある」というものです。その映像にあらわれたのが、飯森範親さんが指揮をした山形交響楽団でした。それは、カーゲルの「フィナーレ」という曲。確かに演奏の途中でオーケストラを指揮していた飯森さんは胸をかきむしってもだえ始めたかと思うと、譜面台をひっくり返して指揮台から倒れ落ちる、というパフォーマンスを演じていました。そのまま動かなくなってしまったので、担架に乗せられて運ばれていくという「オチ」まで付いていましたね。「現代音楽」ではこのぐらいの「演出」は別に珍しいものではありませんが、山形という、はっきり言って「田舎」にあるオーケストラがこんな曲を取り上げたということと、その映像が全国ネットの高視聴率番組によって放送されたという二点で、大きな衝撃を受けたものでした。
それ以来、この飯森/山響というコンビは何かと気になる存在になっていました。いつの間にか外国のメジャー・オーケストラのような、それこそロンドン響のレーベル「LSO LIVE」を意識したかのような「YSO LIVE」という独自レーベルまで持つようになってもいましたしね。
この本は、うだつの上がらなかった弱小地方オケが、飯森さんを常任指揮者(後に音楽監督)に迎えることによって、劇的に変貌していく様子をつぶさに綴ったものです。ライターとしてクレジットされているのが松井信幸さんという、普段はテレビドラマの脚本を執筆されている方です。この方は、学生時代には実際にオーケストラで打楽器を演奏していた経験もあると言いますから、その視点には経験者ならではの確かなものがあります。自ずと、そのドラマティックなレポートは現実味を帯びることになりました。
そんな「ドラマ」の始まりにあたる部分、オーケストラの事務局長が、常任指揮者の就任をお願いするために東京の飯森さんを訪問するシーンが、決定的に印象深いものとなっているのも、当然のことでしょう。新しい常任指揮者を選ぶにあたって、以前に演奏会を指揮してもらって山響の新しい可能性を開いてくれた飯森さんを推す団員は多かったものの、すでに多くのポストを持っていた多忙な指揮者が引き受けてくれるはずはないと、「ダメモト」でお願いしに「上京」したときの描写から、すでに「ツカミ」には余念がありません。その時の事務局長の卑屈な態度は、まさにそれまでの山響の消極的な姿勢そのものだったのですからね。そして、まさかの就任への快諾、その時の条件として提示されたマニフェスト実現に至るまでの経過は、まさに輝かしいラストシーンへ向けての入念な「伏線」のようにすら思えてきます。タイトルは、そんな多くのマニフェストに対して事務局側が発した言葉です。飯森さんはごく当たり前のように提案したことが、当時の山響にとってはとても実現不可能なことだったのでしょうね。女性に優しくするのが苦手だったのかも(それは「フェミニスト」)。
中には、いかにも「脚色」が過ぎると感じられる部分もなくはありませんが、全巻を読み終えての爽快感はなかなかのものがあります。なによりも自らの仕事を「サービス業」と割り切って、お客さんに喜んでもらえるために全力を尽くそうとする飯森さんの基本的な姿勢には、芸術のしもべ面をしてお高くとまっている似非「マエストロ」にはない魅力を感じることが出来ることでしょう。もちろん、彼の影響で意識を変えていった山響の団員たちも、確かに「キャスト」として輝いて見えます。

Book Artwork © Yamaha Music Media Corporation
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by jurassic_oyaji | 2009-07-04 18:54 | 書籍 | Comments(0)