おやぢの部屋2
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2009年 07月 29日 ( 1 )
BACH/Orchestral Suites for a young prince
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Gonzalo X. Ruiz(Ob)
Monica Huggett/
Ensemble Sonnerie
AVIE/AV 2171



バッハの「管弦楽組曲」、略して「カンクミ」などというノーテンキなネーミングで知られている4つの「組曲」は、成立年台などについて多くの論議を呼んでいる作品です。最近の研究によると現在広く知られているものは後年手が加えられたバージョンで、そもそもの形はケーテン時代、音楽好きだったレオポルド公の宮廷楽団のために作られたものであることが分かってきたそうです。そのような研究の先鋒は、お馴染みアメリカの音楽学者、ジョシュア・リフキンです。このリフキン、名前が知られるようになったのはお掃除用のモップ(それは「ダスキン」)ではなく、それまで人知れず埋もれていたスコット・ジョプリンの「ラグタイム」を世に知らしめたことだったのですが、今ではそれよりも先進的なバッハ研究の第一人者としての方が、通りが良くなってしまいました。彼の最大の功績は、バッハの合唱曲を大人数で歌うことを、ちょっと恥ずかしいものにしてしまったことでしょうか。
リフキンの研究にしたがった形で、2001年に「組曲」の最初の形を再構築、録音してくれたのはジークベルト・ランペでした。その時には、ロ短調からイ短調に変わり、ソロ楽器もフルートではなくヴァイオリンになってしまった「第2番」や、トランペットとティンパニがなくなってしまった「3、4番」には驚かされたものでした。まあ、それが最初の形なのだ、と言われれば、従うしかありません。
そして、その流れをさらに推し進め、「2番」のソロ楽器をオーボエにしたバージョンを提案しているのが、このモニカ・ハジェットたちとのアンサンブルでオーボエを演奏しているゴンサロ・ルイスです。やはりこの曲には管楽器のソロの方が似合っている、と判断したのでしょう。確かに、以前のヴァイオリン版は、あまりにあっさりしすぎていて物足りない面がありました。さらに、元々はオーボエだったものを、より演奏人口が多いフルートのために書き直すという可能性についても、彼は自身のライナーによって詳細に述べています。
そのような「可能性」を議論することよりは、実際に「音」を聴いた方が話はストレートに伝わります。オーボエがソロを取っている世界初録音の「2番」は、果たしてフルート版を超えることは出来るのでしょうか。
まず、「序曲」の中間部での技巧的なソロ楽器の扱いでは、このオーボエの奏でる音型はなんと自然に聞こえてくることでしょう。このフレーズを華やかに仕上げるのはフルートにとってはかなり難しいことなのですが、それを、オーボエはいともたやすく成し遂げてしまっています。「ブーレ」のような細かい音符も、やはりオーボエの方が見事にキャラが立っています。いかにもフルートっぽい装飾だと思っていた「ポロネーズ」もオーボエが吹くことになんの遜色もありません。そして、極めつけは最後の「バティネリ」です。そう、この曲は「バディネリBadinerie」ではなく「バティネリBattinerie」の誤記だったのだ、というのも、ランペやルイスの主張です。今まで「冗談っぽく」とか訳されていたこの舞曲は、それとは全く別の「戦闘的」な意味合いを持った踊りだったのです(こんなことを知らされた世のフルート教師は、困ってしまうことでしょうね)。ですからこのソロの「戦闘ラッパ」的なイメージは、フルートよりはオーボエの方がより似つかわしいのは明白です。
そんなわけで、フルーティストにとっては誠に残念なことですが、この曲はまさにオーボエのために作られたのではないか、という箇所があちこちで見つかってしまいました。完敗です。リフキンたちのおかげで、大人数の合唱団とともに、フルーティストも、この曲をフルートで吹くことの無意味さを噛みしめる時代が来てしまいました。真実を知ることは、必ずしも幸せなことではないのかもしれません。

CD Artwork © Monica Huggett
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by jurassic_oyaji | 2009-07-29 19:50 | オーケストラ | Comments(2)