おやぢの部屋2
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2013年 02月 26日 ( 1 )
幻の楽器 ヴィオラ・アルタ物語
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平野真敏著
集英社刊(集英社新書0674N)
ISBN978-4-08-720674-6



本屋さんの店頭で、こんなヴァイオリンのような楽器が表紙になっている新書が目につきました。「幻の楽器」とか「ヴィオラ・アルタ」などといった、とても興味をそそられる言葉もあるた。同じ「ヴィオラなんとか」でも「ヴィオラ・ダ・ガンバ」ヤ「ヴィオラ・ダモーレ」というのは、外観がただのヴィオラとは全然異なっていますが、これは何の変哲もないヴィオラにしか見えません。ただ、著者がその楽器と一緒に写っている写真を見ると、かなり大きなものであることは分かります。でも、このぐらいの大きさのヴィオラだったら、実際に弾いている人を見たことがあるような気がします。しかし、「幻の」というような言葉をわざわざ使っているところを見ると、やはりこれは特殊な楽器なのかもしれません。
実際に買って読み始めたら、一気に最後まで読めてしまうほどの面白さでした。それは、単にこの楽器に関する情報を提供するだけのものではなく、ほとんど「ミステリー」と言ってもかまわないほどのエキサイティングな展開を味わえる、極上のエンターテインメントでさえあったのですからね。
まず著者は、この楽器が普通のヴィオラとはどのように違っているかを、克明に語ってくれます。確かにヴィオラにはかなり大きなものもありますが、これはそれらとはかけ離れて大きなサイズなのだそうです。そして、今回初めて知ったのですが、弦楽器というものは完全に左右対称の形のものなどないのだそうなのですね。しかし、これはとても精密な対称性を持っています。さらに、著者の持つこの楽器は本来は弦が5本付いていたようで、おそらく通常のヴィオラのC線、G線、D線、A線の上に、さらにE線が張られていたらしいのです。つまり、上の4本の弦は、ヴァイオリンと全く同じ音域を持っていたというのですね。もちろん、最低音はヴァイオリンの5度下まであることになります。
そして、何よりも音色がヴィオラとははっきり違っているそうです。ヴィオラ特有の「鼻にかかった音」ではなく、もっとほかの弦楽器に馴染む音なのだとか。巻末で紹介されている著者のウェブサイトでは、実際にそれを聴くことが出来るようになっています。確かに、低音はチェロ、高音はヴァイオリンのような音でしたね。
この楽器は、作られた当時は多くの作曲家に好まれたようで、特にワーグナーは、彼のオーケストラのサウンドにはなくてはならない楽器として、バイロイトにこの楽器の発明者であるヘルマン・リッターを首席ヴィオラ・アルト奏者として招き、ヴィオラパート全員にこの楽器を持たせて、リッターに奏法を教えさせたのだそうです。
それほどまでに隆盛を誇った楽器が、現在では完璧に誰も知らない楽器になってしまっています。その「謎」を解くために、著者はわざわざヨーロッパまで行って、各地で様々なリサーチを試みます。そして、決定的な「証拠」を見つけるまでの描写のスリリングなこと、これはぜひ実物を読んでいただきたいものです。
そんな本筋とは別に、先ほどのバイロイトのくだりで、新しく「5本」のヴィオラ・アルタを購入したというところに引っかかりました。リッターの楽器と合わせても6本、音色をそろえるための措置なのですから、そこに普通のヴィオラが加わることは考えられません。ということは、これが当時のバイロイトのオーケストラのサイズだったのでしょうか。現在の半分近くの人数ですね。しかし、手元にあったピリオド楽器による「オランダ人」のCDのメンバー表では、ヴィオラはまさに「6人」でした(弦全体の人数は10-9-6-6-4)。ということは、現在のおそらく16型ぐらいの弦楽器のサイズは、決してワーグナーが求めたものではなかったのかもしれませんね。前々回のゲルギエフは、そんなことも考えてあのような編成をとっていたのかも。

Book Artwork © Shueisha Inc.
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by jurassic_oyaji | 2013-02-26 23:28 | 書籍 | Comments(0)