おやぢの部屋2
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2016年 07月 19日 ( 1 )
名曲の真相/管楽器で読み解く音楽の素顔
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佐伯茂樹著
アカデミア・ミュージック株式会社刊
ISBN978-4-87017-095-7




いつもその博識さで驚かせてくれる佐伯さんの新刊です。とは言っても、全くの書き下ろしというわけではなく、だいぶ前に音楽之友社から刊行されて、今は絶版になっている「名曲の『常識』『非常識』~オーケストラのなかの管楽器考現学」という本を、「現在でも通用すると思われるネタを流用しつつ新規で書き下ろした」のだそうです。
今回の版元は、アカデミア・ミュージックという、楽譜の専門店として有名なところです。ここでは毎月月報を作って無償で配布していますが、その内容はとことんマニアック、ですから、こんな佐伯さんのようなものに関してはお手の物に違いありません。ちょっと製本が雑で、無線綴じが剥がれたりしますが。
もちろん、佐伯さんの書かれたものには、そんな粗悪なところなどは微塵もありません。これまでは全く気が付かなかったような、オーケストラの管楽器に関する疑問が、次から次へと明快に解かれていくのには、いつもながらのスッキリ感が味わえます。
全体は、時代順に「バロック時代」、「古典派時代」、「19世紀」、「20世紀」4つのパートに分けられています。そこでは、それぞれの時代での様々な要因が楽器にもたらした歴史が語られています。最初の「バロック時代」では、「楽器の制限」というキーワードが用いられています。しかし、その「制限」という意味が、ネガティヴなものではなくポジティヴにとらえられているのが、ユニークな視点ですね。いや、実はそのような視点の方が今では「普通」になっているのですが、それは保守的なクラシック・ファン全体にはなかなか浸透することはない、という意味で「ユニーク」なわけです。
それは、例えばバロック時代のフルートであるフラウト・トラヴェルソには、指穴以外のキーがほとんど付いていないので、均一な半音階を吹くのは非常に難しいのですが、それを機能的な現代フルートには及ばない欠点ととらえるのではなく、調によって音色を変えることができるという「長所」ととらえるというような視点です。
「バロック時代」と「古典派時代」、さらに「19世紀」にも登場しているのが、トロンボーンです。常々、この楽器については疑問に感じている点が多々ありました。その最大のものは、この楽器自体はバロック以前からあったというのに、オーケストラの典型的なレパートリーである「交響曲」というジャンルの作品で最初に使われたのは、やっとベートーヴェンの交響曲第5番が作られた時なんですからね。そんな疑問に対する著者の答えは明快です。それは、「トロンボーンは教会というフィールドを中心に使われていた」というものです。ですから、作曲家がこの楽器を使う時には、少なからず「宗教的」なイメージが伴う、とも述べられています。
ただ、そうなると、あれだけ教会のための音楽を作ったバッハがこの楽器を使っていなかったのはなぜか、という新たな疑問が湧いてきます。それに対しても、著者は「バッハはプロテスタントだったから」と説明しています。トロンボーンが入るような華麗な音楽はカトリックだけのもので、プロテスタントではそのようなものは演奏されることはなかったのだ、と。うん、まさに目からうろこが落ちる思いです。
さらに、特殊なトロンボーンについても、以前の著作を参考に作らせていただいたこちらのコンテンツに関して、さらに深い考察を見せてくれているだけではなく、実際に「バスホルン」を演奏している写真を見ることができるのは感激ものです。
最後の「20世紀」では、ジャズバンドやミュージカルのピットでの「マルチリード」が扱われています。これも興味深いテーマですが、それに関連させて、ワーグナーが同じ発想でホルン奏者が持ち替えて演奏できるような楽器「ワーグナーチューバ」を開発していたのだ、という佐伯さんの視線もとても新鮮です。

Book Artwork© ACADEMIA MUSIC LTD.
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by jurassic_oyaji | 2016-07-19 20:21 | 書籍 | Comments(0)