おやぢの部屋2
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2016年 08月 06日 ( 1 )
THOMPSON/Requiem
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David Hayes/
The Philadelphia Singers
NAXOS/8.559789




ランドール・トンプソンという名前の作曲家など、初めて聞いたのでは、と思っていたら、実はこちらですでに彼の作品を聴いていました。そこで取り上げられていたのは「Alleluia」という無伴奏の合唱曲でしたが、それを初めて聴いた時には、言いようのない新鮮な感じを持ったことを憶えています。とても深いところで心に訴えるものを持った、「本物」の音楽です。
もう一つ、彼はあのバーンスタインの先生だった、ということで知られています。ただ、巷間(たとえばWikipediaとか、それをコピペしたと思われるこのCDのインフォ)、「レナード・バーンスタインはハーバード大学での生徒の1人であった」とされている情報は誤りです。バーンスタインはハーバードを卒業した後、カーティス音楽院のオーケストレーションのクラスでトンプソンに師事していたのですから。
そんな、他人に「管弦楽法」を教えるほどのスキルがあり、自身の交響曲もいくつか作っているトンプソンですが、彼は主に合唱作品の作曲家としてアメリカでは広く知られています。とは言っても、実際にその作品を聴く機会はほとんどなく、この1958年に作られた「レクイエム」も、これまでに部分的に録音されたものはありましたが、全曲録音としてはこのCD(録音されたのは2014年)が世界で初めてのものとなります。
20世紀以降に作られた「レクイエム」では、もちろん伝統的なテキストによる作品もたくさん作られてはいますが、それにはあまりこだわらないもっと自由な形式のものもあります。例えば1962年のブリテンの「戦争レクイエム」では、オリジナルのラテン語の典礼文の他に、別の現代詩人の詩が用いられています。もっと時代が近い1985年のジョン・ラッターの作品でも、やはりそのような自由詩が挿入されています。しかし、このトンプソンの「レクイエム」では、そのタイトルの由来ともいえる「Requiem aeternam」というテキストすらもどこにも見られなくなっていました。彼が用いたテキストは、すべて英訳された聖書からの引用だったのです。
これはなかなかユニークな発想ですが、過去にそんな例がなかったわけではありません。それは、これより1世紀近く前、1868年に作られたブラームスの「ドイツ・レクイエム」です。したがって、このトンプソンの「レクイエム」は、誤解を招かないように「アメリカ・レクイエム」とでも言った方がいいのかもしれませんね。
もちろん、トンプソンが選んだ聖書のテキストは、ブラームスのものとは何の関係もありません。彼は、彼自身のインスピレーションに基づいて言葉を選び、再構築しているように見えます。そして、それらのテキストを、2つの無伴奏の混声合唱に振り分けたのです。そこで彼は、「第1コーラス」を、愛する人を失って悲しみにくれる「嘆きの合唱」、「第2コーラス」を、その人たちに死者の永遠の安息(これが「Requiem aeternam」)を信じさせて慰めを与える「信仰の合唱」と位置づけ、それぞれの合唱の「対話」という形で音楽、あるいはそこで描かれる「ドラマ」を進行させているのです。
そのような作曲家の意図を最大限に表現するために、演奏家と録音スタッフはそれぞれの合唱の性格を際立たせるように細心の注意を払っています。特に、録音面では、2つの合唱をそのまま録るのではなく、「第2コーラス」にはリバーブを深めにかけて、「第1コーラス」との距離感がはっきり分かるようにしています。
それだけの準備に応えられるだけのとてつもない力を、この、デイヴィッド・ヘイズが指揮をしているフィラデルフィア・シンガーズは持っていました。その芯がある音色と、完璧なハーモニー、そしてポリフォニーにおける目の覚めるようなメリスマ、それらが一体となって、この「レクイエム」は確かな命を吹き込まれ、言いようのない感動を引き起こすことになったのです。録音も超一流、機会があればぜひ24/96のハイレゾ音源で聴いてみて下さい。

CD Artwork © Naxos Rights US, Inc.
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by jurassic_oyaji | 2016-08-06 21:54 | 合唱 | Comments(0)