おやぢの部屋2
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2017年 01月 10日 ( 1 )
SHOSTAKOVICH/Violin Concerto No.2, TCHAIKOVSKY/Violin Concerto
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Linus Roth(Vn)
Thomas Sanderling/
London Symphony Orchestra
CHALLENGE/CC72689(hybrid SACD)




チャイコフスキーのヴァイオリン協奏曲の最新のSACDには、販売している日本の代理店によって「チャイコフスキーのヴァイオリン協奏曲の最初の形はこうだった!」という大げさなキャッチが付けられていました。確かに、HENLE(2010年)とBREITKOPF(2011年)からは新しい楽譜が出版されています。これらは両社の共同作業(校訂者はベートーヴェンの楽譜の校訂で知られるエルンスト・ヘルトリヒ)によって作られ、ピアノ・スコアは双方から、フル・スコアとパート譜はBREITKOPFから販売されています。おそらくその楽譜を使って初めて録音されたのが、このSACDなのでしょう。
一応、この曲の楽譜に関しての状況を調べてみると、1878年にロシアのユルゲンソン社からまずピアノ・スコアが出版され、それに続いてオーケストラのパート譜も出版されました。初演は1881年に行われたのですが、ご存知の通りこの時はあのハンスリックによってこてんぱんにけなされてしまいます。
そして、1888年になってやっとフル・スコアが出版されるのですが、そこではヴァイオリン・ソロのパートがかなりの部分で改変されていました。ただ、現在の演奏家は、その改変が反映されていない、1878年の形のものを主に使っているのではないでしょうか。
今回のヘルトリヒの校訂も、基本は1878年版を主な資料として採用しているようでした。ただ、その楽譜の断片がブックレットに引用されていますが、その中には一部で「ossia」という但し書きで、初版のスコア(1888年版)での音符が少し小さな楽譜で掲載されています。これは、原典版にはよく見られる措置、校訂者自身もどちらの資料を採用したらいいのか自信がない時には、このように「あるいは」ということで両方の資料を載せることがあるのですね。もちろん、本音では大きな楽譜の方を採用してほしいと思っているのでしょうね。

ところが、ここでのヴァイオリニスト、リナス・ロスは、その「小さな」(上の)楽譜の方を演奏していました。例えば第1楽章の163小節目と165小節目のそれぞれ2つ目の十六分音符を、1オクターブ上げて弾いているのです。参考までに他の人の録音を何種類か聴いてみましたが、そのように弾いている人は誰もいませんでした。そういうとても珍しい演奏になっているのですが、それは果たしてこの楽譜の校訂者の意思に沿ったものであるかは疑問です。もちろん、それはキャッチにある「最初の形」ではありませんしね。
次に引用されているのは第2楽章の楽譜です。これも初版のピアノ・スコアとフル・スコアでは違っています。これはIMSLPでも見られますから、比較してみましょう。

↑ピアノ・スコア

↑フル・スコア

このように、フル・スコアからはヴァイオリン・ソロの「con soldino」という文字が消えています。さらに、もっと先の新しいテーマの最初にある「con anima」という文字もなくなっています。もちろん、今回の原典版では、このピアノ・スコアの形を採用していて、そこには「ossia」はありません。ですから、ロスはこの楽章の間はずっと弱音器を付けて演奏しています。これは「最初の形」ですから、何の問題もありません。

と、ずっとピアノ・スコア版に則った楽譜を提示していたヘルトリヒなのに、この楽章の、頭のテーマがもう1度帰ってくる部分の直前で、この「B♭」の音を「C」に変えています。これはフル・スコア版に見られる形です。

でも、この後にクラリネットが同じ音型を繰り返す時には、しっかり「B♭」(この楽譜はinB♭)を吹いているんですよね。この「C」はチャイコフスキーのミスなのではないか、という気がするのですが。ピアノ協奏曲第1番の第2楽章の頭でも、フルート・ソロとピアノ・ソロでは音が違っているところがありますが、これも最近はミスだと言われていますからね。もちろん、ここを「C」で弾いている録音など、本当に珍しいはずです。もしかしたらこのSACDだけかもしれません。それは、誰もそれが「最初の形」だとは思っていないからなのではないでしょうか。

SACD Artwork © Challenge Classics
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by jurassic_oyaji | 2017-01-10 21:34 | ヴァイオリン | Comments(0)