おやぢの部屋2
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2017年 04月 25日 ( 1 )
PUCCINI/Tosca
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Leontyne Price(Tosca)
Giuseppe di Stefano(Cavaradossi)
Giuseppe Taddei(Scarpia)
Herbert von Karajan/
Wiener Philharmoniker
DECCA/483 1486(BD-A)


1959年から1965年にかけて、カラヤンはウィーン・フィルを指揮してDECCAのためにオペラを含めた多くの録音を行いました。その中には、当時DECCAが業務提携を結んでいたアメリカのRCAの商品として販売されるアイテムがかなりありました。というか、カラヤンはそのような状況だったので、それまでずっと録音を行ってきたEMIと、すでに録音を始めていたDGを差し置いて、このレーベルとの録音契約を交わしたという事情もあるようですね。当時のDGはアメリカではそれほど販売実績がなかったので、RCAというアメリカのメジャー・レーベルとの関係には、彼のような「商売人」にとってはそそられるものがあったのでしょう。
この1962年に録音された「トスカ」も、そのように当初はRCAの「ソリア・シリーズ」という超豪華な装丁が売り物のパッケージとして販売されました。日本ビクターから発売された国内盤も金箔押しでそりゃあ豪華なパッケージでした。その翌年に録音された「カルメン」も、やはり「ソリア・シリーズ」で販売されています。その後、RCAとの提携が切れると、DECCAが提供した原盤(1/2インチ、38cm/secのマスターテープ)はほとんどが返還されますが、この「カルメン」だけはRCAの所有となっていて、それはこちらのように2008年に日本でSACD化されました。
そして、「トスカ」の方がやっと、こちらは24/96のBD-Aで、ハイレゾのパッケージが発売されました。「カルメン」のSACDには衝撃を受けましたから、それとほぼ同じ時期のこの「トスカ」に期待するのは当然のことです。
しかし、そのBD-Aから、前奏曲での金管楽器の彷徨が無残にも歪みまくった音で聴こえてきたとき、その期待はもろくも崩れ去りました。そこでは、天才エンジニア、ゴードン・パリーの作り出したあの豊饒なサウンドが、完膚なきまでに破壊されていたのです。その後、音楽が静かになってくると、かろうじてその繊細なテクスチャーは感じられるようになります。ソリストも同じこと、プライスやステファノの声ではそれほど目立たないものの、タッデイのバリトンでの歪みは寛容の限界をはるかに超えるものでした。
こうなることは、だいぶ前から予想はしていました。こちらに書いたように、1960年前後に録音されたマスターテープは、もはや現在では(というか、2009年の時点で)劣化が進んでいて使い物にならなくなっているのです。その頃録音されていたショルティの「指環」が今でもまともに聴けるのは、幸運にも1997年にデジタル・トランスファーされたものが残っていたからなのです(文中ではそのフォーマットが「24/48」となっていますが、現在販売されているハイレゾ・データは「24/44.1」のようです)。象徴的なのは、第2幕でトスカによって歌われる有名な「Vissi d'arte, vissi d'amore(歌に生き、恋に生き)」です。以前CD化されていたものと比較してみると、今回のBD-Aではそのアリアの8小節目「Con man furtiva」の頭で、明らかにテープをつないだ跡が聴こえます。おそらく、今回のトランスファーの時には、ここははがれてしまっていたのでしょう。
ただ、先ほどの「カルメン」では2008年にトランスファーが行われていても、そんな目立った歪みは感じられませんでした。保存や管理の状態で、個々の原盤の劣化の程度は異なっているのでしょうね。なんせ、この「トスカ」のマスターテープは何度も大西洋を横断していたのですから。
その時のプロデューサーのジョン・カルショーの著作によると、今のようにマルチトラックのレコーダーが使えなかった時代なので、カヴァラドッシが処刑される時の銃声などは、ダビングでの音の劣化を避けるために演奏しているのと同時に録音していたのだそうですが、タイミングが合わなくて何度もやり直したのだそうです。そんな苦労もすっかり水の泡ですね。
正直、マスターテープの劣化がこれほどのものだとは知りませんでした。貴重な「文化遺産」が、ダメになりかけています。もう手遅れかもしれません。

BD Artwork © Decca Music Group Limited

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by jurassic_oyaji | 2017-04-25 21:14 | オペラ | Comments(0)