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2017年 07月 11日 ( 1 )
SCHUBERT/Symphony No.8 "Unfinished"
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Mario Venzago/
Kammerorchester Basel
SONY/88985431382


いろいろ突っ込みどころ満載のジャケットです。まず、曲のタイトルとして最初に「The Finished "Unfinished"」、つまり「完成された『未完成』」という、不思議なセンテンスが掲げられています。いわゆる「未完成」というニックネームで広く親しまれている、シューベルトのあのロ短調の交響曲は、その名の通り本来なら4つの楽章があるはずなのに前半の2つの楽章しか作曲されていないという作品なのですが、それを「完成」させてしまったというのですね。完成すればもう「未完成」ではなくなるのに、ちゃんと「交響曲第8番『未完成』」と、理不尽なタイトルなのが、まず笑えます。
ジャケットの写真の方も、普通に見ると重苦しく漂う雲を撮ったものだと思ってしまいますが、ブックレットを裏返すと、そこにはまだつながっていない工事中の橋が。これで「未完成」を表現しているのでしょう。でも、曲の方はもう「開通」しているのに。
「未完成」を「完成」させたのは、何も今回が初めてのことではありません。1981年から1984年にかけて、ネヴィル・マリナーがPHILIPSにシューベルトの交響曲全集を録音した時には、イギリスの音楽学者ブライアン・ニューボールドによって、多くの交響曲が「復元」されていましたが、1983年に録音されたこのロ短調の交響曲でもしっかり4楽章までの「フルサイズ」のものになっています。ご存知のように、この曲のスケルツォ楽章は最初の20小節はオーケストレーションが完了していますし、そのあともトリオの断片までがピアノ譜で残されていますから、ニューボールドは一応シューベルトが望んだであろう形に復元することは可能でした。ただ、フィナーレの楽章はそのような下書きめいたものは残されてはいませんから、ほぼ同じ時期に作られた劇音楽「ロザムンデ」の間奏曲第1番をそのまま使っています。
今回は、指揮者のヴェンツァーゴが自らの仮説をもとにこの2つの楽章を復元したものが演奏されています。ただ、「ヴェンツァーゴ版」はここで初めて披露されているわけではなく、すでに2007年に録音されたジョアン・ファレッタ指揮のバッファロー・フィルの録音(NAXOS)でも使われていました。ここでは第3楽章がニューボールド版、第4楽章がヴェンツァーゴ版によって演奏されています。ただ、同じヴェンツァーゴ版と言っても、今回自らが指揮をして演奏しているものとは少し異なっている部分がありますから、この10年の間に「改訂」が行われているのでしょう。
ヴェンツァーゴの説によれば、シューベルトは最初からこの交響曲は4つの楽章まで作っていたそうなのです。そして、「ロザムンデ」の注文を受けて急いで仕上げなければいけなかった時に、この交響曲の第3、第4楽章からモティーフを転用したのですが、その際に交響曲の楽譜が散逸してしまった、というのです。ですから、その逆の手順、つまり「ロザムンデ」の中の何曲かの素材を組み合わせることによって新たに復元された第3、第4楽章が、ここでは演奏されています。
今まで首席客演指揮者のジョヴァンニ・アントニーニとの演奏でベートーヴェンの交響曲などを聴いてきたこのバーゼル室内管弦楽団は、ここでも7.6.5.4.3という編成の弦楽器と、木管楽器以外はかなりピリオドに近い楽器を用いるというやりかたによって演奏を行っていました。特にユニークなのは、第1楽章をきちんと楽譜通りの「アレグロ」のテンポにしていることでしょう。確かに、これによってこの曲の新たな姿は浮かび上がってきます。ただ、それを受ける「新しい」楽章たちからは、逆に冗長な印象を与えられてしまいます。第3楽章で、第2トリオを新たに「ロザムンデ」の素材で付け加えていますが、それを間にスケルツォを挟まず第1トリオのすぐ後に置いているのはあまりに風変りですし、第4楽章もコーダで第1楽章のテーマが再現されているのには、違和感が募るだけです。だれも、原曲がこうだとは思わないでしょう。

CD Artwork © Sony Music Entertainment Switzerland GmbH

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by jurassic_oyaji | 2017-07-11 22:32 | オーケストラ | Comments(0)