おやぢの部屋2
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2017年 11月 07日 ( 1 )
蓮見律子の推理交響楽/比翼のバルカローレ
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杉井光著
講談社刊(講談社タイガ/ス-A-01)
ISBN978-4-06-294083-2


リアル書店で文庫本の棚を見ていた時に、なにか「呼ばれて」いるような気がしたので読んでみることにしました。「交響楽」という、今のクラシック界では絶えて使われることのない古めかしい言葉がタイトルになっていたせいでしょうか。
著者の名前も全く聞いたことのないものですが、そんなことは気にせずに読み始めると、その内容は音楽的にはけっこうヘビーであることに気づきます。「推理~」というタイトル通り、これは推理小説の範疇に入るべきものなのでしょうが、そんな「推理小説」らしい「事件」が起こるのは、半分近くまで読み進んだ時でした。
つまり、それまでに行われていたことといえば、登場人物たちの単なる「日常」でした。とは言っても、著者はその登場人物たちにとんでもない「非日常的」な設定を与えていますから、まずはそのぶっ飛んだ生態を味わうだけで、けっこうな刺激が与えられたりします。そして、その最もぶっ飛んだ人物が「音楽家」であるところが、この作品の最大の魅力となっています。
タイトルの蓮見律子というのが、その音楽家。映画音楽などで多くの作品が世に出ている作曲家で、その収入で21階建の高級マンションを所有、その最上階に住んでいます。
そして、彼女に絡むのが、音楽に対しては特にマニアックな嗜好はないものの、普通に音楽を楽しめる感性はもっている、ニートのブロガーです。一応大学生ですが留年を繰り返して、講義を聴くこともなく、ただPCに向かって刺激的なブログを書き続け、そのアフィリエイトで生活しているという設定です。彼がひょんなことからその音楽家が作った曲の作詞を依頼されるというところから物語は始まり、その一部始終を彼が一人称で書き綴る、という体裁、これはまさに推理小説の古典に登場するシャーロック・ホームズとジョン・ワトソンとの関係そのものです。ワトソンを女性にしたテレビドラマがありますが、こちらはホームズが女性になっていますね。
そんな律子が、その「日常」の中で語り手のブロガーに対して自らの音楽観を披露しているのが、個人的には最も興味深いポイントでした。そこには著者自身の音楽観と共通するものがあるのか、あるいは単にネットからそれっぽいものを拾って来てコピペしただけ(こちらの方が可能性は高いでしょうが)なのかもしれませんが、それをほとんど日本一の作曲家に言わせているというところで、不思議な存在感が生まれます。
まずは、ブロガーが律子の曲の作詞に挑戦するところで、彼女は「歌詞」というか「詩」についての持論を展開します。曰く、「韻文であることが必要条件の一つ」と。「韻文」!なんと懐かしい言葉でしょう。これを見て、即座に対義語である「散文」という言葉も思い出しました。それで、最近の歌が歌詞の面からとてもつまらなくなっている理由が突然分かったような気になりました。今の歌では、圧倒的に散文の歌詞が多くなっているのですね。それらは、韻文のようにメロディに馴染むことはなく、違和感ばかりが募ることになっていたのでした。さらに、ただ韻を踏むだけの日本語ラッパーに対しても、彼女は「息苦しいほどの必死さで、楽しめない」と切り捨ててくれますから、爽快ですね。
結局、ブロガーの歌詞は完成し、出来上がった曲を音律の専門家に聴かせるのですが、そこで「詞だけを集中して聞こうとしましたができませんでした。どうやっても、声と楽器と言葉とが混然一体となって流れ込んできてしまいます。本来、詞とはこうあるべきなのでしょう」という言葉が返ってきた時には、涙が出てきましたね。
いや、本当に号泣したくなるほどの感動が訪れるのが、「事件」が解決した時です。「音楽」を、これほど見事に小説の中に取り入れたものを、知りません。
もしこれが映像化される時には、律子は絶対シシドカフカでしょう。それは不可

Book Artwork © Kodansha Ltd.

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by jurassic_oyaji | 2017-11-07 23:04 | 書籍 | Comments(0)