おやぢの部屋2
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2017年 11月 30日 ( 1 )
オーケストラ解体新書
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読売日本交響楽団編
中央公論新社刊
ISBN978-4-12-005007-7


この間、カンブルランが指揮をした読売日本交響楽団によって日本初演されたメシアンの「アッシジの聖フランチェスコ」全曲のコンサートの時に、CDやDVDとともに即売コーナーに山積みになっていたので、買いたいと思ったのがこの本でした。
基本的な内容は、このオーケストラの事務局の2人、飯田政之さんという方と松本良一さんという方が中心になって執筆やインタビューを行ってまとめられた、オーケストラの内部の説明本なのですが、それだけではなく、日本のオーケストラが抱えている問題にまで踏み込んでいるような部分もあります。
なんと言っても面白いのは、オーケストラがコンサートを開くまでに行うことが本当に事細かに描かれていることでしょうね。特に圧巻なのが、かつては読売新聞の文化部の記者として多くのインタビューなどを行っていた松本さんが執筆した「ドキュメント・オブ・ザ・コンサート」と名付けられた「第3章」です。それはまさにコンサートが出来上がるまでを生々しく追った「ドキュメンタリー」そのものでした。
そこで取り上げられている五嶋みどりをソリストに迎えたコンサートのくだりは、刻一刻変わっていくリハーサルの現場を、ある時はソリストの心の中まで覗き込むほどの鋭さを持って語った卓越したものでした。そこからは、まさにそこにいた人しか知りえない極度の緊張感が、まざまざと伝わってきます。
オーケストラの団員たちが指揮者について語っている言葉も、とても興味深いものでした。テミルカーノフなどは、手の動きを見ただけでどんな音楽をやりたいのかが一瞬で分かってしまうのだそうですね。
さらにこの本からはこのオーケストラが持っている温かい雰囲気を伝えたいという気持ちがとても強く伝わってきます。巻頭にカラーで紹介されているかつて正指揮者だった下野竜也さんの写真をフランケンシュタインのように修正したチラシには、笑えました。
そんな、とても充実した内容の本なのですが、1ヵ所だけ、とても愚かなことが書いてあることによってすべてが台無しになっています。それは、「コンサートのマナー」というコラムです。その中で、コンサートで配られる月刊誌で「マナー」について掲載されていることが語られているのですが、とりあえずその現物を見て頂きましょう。
どれも、至極当たり前のように思えますが、最後の「拍手はタクトが降ろされてから」というのはいったいなんなのでしょう。確かに、最近ではまるで「自分はこの曲をよく知っているのだぞ」とアピールしているような早すぎる拍手やブラヴォーが顰蹙を買っているのは十分に承知していますが、それを阻止するために全ての曲について一律に「タクトを降ろしてから」という「マナー」を「強制」するのは愚の骨頂です。「悲愴」や「マーラーの9番」ではこれは当てはまるかもしれませんが、ほとんどの曲ではタクトを降ろすまで待っていたのでは拍手の意味がなくなってしまいます。早い話が、これを買った時のコンサートの最後は、オーケストラと合唱がクライマックスを作り上げて終わるのですが、それまでに何度となくこの「マナー」がアナウンスされていたために、聴衆はタクトが降りる何十秒かの間、「余韻」はとっくになくなっているのに拍手をすることが出来ませんでした。その後でまるで強制されるかのように起こった拍手の、なんと白々しかったことでしょう。せっかくの感動が、この「マナー」のために吹っ飛んでしまいましたよ。この件のオーソリティ、茂木大輔さんの名著「拍手のルール」の中には、「一呼吸おいてから」という見事なサジェスチョンがあるというのに。
同じ場所で即売されていたDVDでは、まさに音楽が終わって「一呼吸おいてから」、嵐のような拍手が起こっていましたね。このオーケストラを聴きに来た人は、一生そのような体験を味わうことが出来ないのでしょうね。かわいそうに。

Book Artwork © Chuokoron-Shinsha, Inc.

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by jurassic_oyaji | 2017-11-30 20:56 | 書籍 | Comments(0)