Heidi Melton(Sop)
Paul Daniel/
Orchestre National Bordeaux Aquitaine
ACTES SUD/ASM 22
おそらく、勘違いだったのでしょう。このアルバムのレーベルと品番を見たときに、これはあのロトとレ・シエクルの新しい録音か何かだ、と思い込んでしまったのですね。そこで中身も確かめずに注文したら、こんな予想もしないものが届いてしまった、というわけです。
それは、
B6版のハードカバーの書籍そのものでした。
AVではありません(それは「
ハードコア」)。なんだか、絵本か写真集のようですね。確かに「写真」はたくさん載っています。でも、それは楽器を持ったオーケストラのメンバーの写真。最後の方のページには、そのオーケストラのメンバー表らしきものがありますから、やはりこれは本のような体裁で作られたCDのジャケットなのでしょう。
その「容れ物」があまりに立派なので、もしかしたら
CDなんかは入っていないのではないか、とさえ思ってしまうぐらいですが、それは一番あとのページに「袋とじ」になって入っていましたから、ご安心ください。
しかし、このフランスのレーベルによる「
CD」は、完璧に全編フランス語で押し通していますから、いったいどのような意図でこんな
CDを制作したのか、というようなことが、そのライナーノーツからは殆ど読みとれないのが悔しいところです。ドイツ語だったら半分、英語ならもちろん全部分かるのですが(え?)。
どうやらこれは、昨シーズンから音楽監督となったポール・ダニエルにひきいられたフランス国立ボルドー・アキテーヌ管弦楽団(
2008年に、「ラ・フォル・ジュルネ」で来日してるそうです)が、ソプラノのハイディ・メルトンを迎えてワーグナーの作品を演奏したコンサートのライブ録音のようでした。取り上げているのは「タンホイザー」、「トリスタン」そして「神々のたそがれ」で、それぞれオケだけの曲を1曲と、エリーザベト、イゾルデ、ブリュンヒルデのソロを歌うという趣向です。
さらに、たくさんの写真は高名な写真家の作品なのだそうで、リハーサルの合間のオーケストラのメンバーの「打ち解けた」様子がとてもリアルに撮られています。というか、それらは「音楽家」というよりは、その辺のただのおじさん、おばさんというノリで談笑しているところを不覚にも撮られてしまった、というような気さえするものでした。
そんな中に、日本人らしい人を発見。写真に写っているのはチェロ、ヴァイオリン、チューバですが、メンバー表によるともう一人ヴィオラにもいるようです。特に、チューバの「ミズナカ」さんというのはかなり有名な方で、佐渡裕の番組でも紹介されていたようですね。
ライブ録音のせいでしょうか、なにか弦楽器が引っ込んでいるような録音状態が気になりますが、最初の「タンホイザー」ではもちろん「パリ版」を使用、序曲に続いて「バッカナール」が演奏されています。こういうものこそ、このオーケストラだったら嬉々としてやりそうなものですが、なんだか乗りが悪いのはどういうわけでしょう。しかし、メルトンの「殿堂のアリア」が始まったとたん、まわりの空気がグッと引き締まります。なんという存在感のある声。これは間違いなくワーグナーには最も適した声です。それが、適度に力を抜いて、肝心のところでは思いきりヘビーに迫るという「賢い」歌い方をしてくれるのですから、たまりません。もちろん、イゾルデもブリュンヒルデも、今までになかったようなキャラクターで絶妙に迫ってくれました。これが聴ければ、多少オケがへなちょこでも大丈夫です。
いや、このオケ、盛り上げてほしいところで各セクションがバラバラの方を向いているものですから、ワーグナーらしいクライマックスが作れないんですよね。ただ、さっきの「ミズナカ」さんのチューバだけは、「黄昏」の「葬送行進曲」ではバリバリ聴こえてきますから、とても気持ちがいいのですけど。
CD Artwork c Actes Sud/Opéra Nationl de Bordeaux