André Isoir(Org)
LA DOLCE VOLTA/147.2ジャック・ル・カルヴェという人が
1972年に創設したフランスのレーベルが、
CALLIOPEです。アナウンサーではありません(それは
軽部真一)。普通は「カリオペ」と呼ばれていますが、フランス語読みだと「カリオップ」となるのだそうです。
その
CALLIOPEが、創設直後から
1976年にかけて敢行したプロジェクトが、このタイトル、日本語では「フランス・オルガン音楽の至宝」となります。それは、全部で
LPが
30枚分という、膨大なアンソロジーでした。ルネサンス期の作品からメシアンまでをカバーするという、それまでに前例のない企画、中でも、
17世紀から
18世紀にかけてのフランスのオルガン作品が独自の輝きを持っていた時代のものが、これだけ体系的に録音されたのは初めてのことでした。その中で、メシアンの6枚はルイ・ティリーが演奏していましたが、残りの
24枚は、アンドレ・イゾワールが一人で録音したものです。そのうちの
10枚のアルバムに収録されていたものが、今回6枚の
CDとなって、ボックスとしてリイシューされました。
実は、このシリーズが最初に
LPでリリースされた時には、国内盤がビクター音産から出ていました。それが、まずオーディオ的なすごさによって大評判となります。確かに、ル・カルヴェとタッグを組んでいたエンジニアのジョルジュ・キセロフによる録音は、まさに驚くべきものでした。ですから、国内盤では飽き足らず、わざわざ秋葉原まで行って何枚かフランス盤を買ってきたほどです。それは、ジャケットもとても凝ったもので、見開きのダブルジャケットの
LPを入れる部分に、さらに折り返しがあって埃の侵入を完全に防ぐ工夫が施されていました。
今回のボックスでは、そんな初期のジャケットの片鱗すらもない、ケバいデザインに変わっていました。ただ、その外箱に日本語が印刷してあるのにはちょっとびっくり、ブックレットも、しっかり全文がフランス語、英語、そして日本語で印刷されています。おそらく、このレーベルのファンが日本には多いことを考慮してのことなのでしょう。先ほどから「カリオップ」とか「キセロフ」といった、見慣れない表記があるのは、その訳文からの引用だからです。
ご存知のように、ル・カルヴェは
2010年に自らの手でこのレーベルを終息させてしまいました。その後、権利とカタログは他人の手に渡るのですが、そんな中で
2011年に、この
LA DOLCE VOLTAという新しいレーベルが、
CALLIOPEのカタログのリイシューのために設立されました。ただ、それとは別に
CALLIOPEのレーベル名までも引き継いで、同じようにリイシューを行っているところもあるので、ちょっと事情は複雑です。
このボックスに関しては、今まで
CDでは出ていなかったものが多く含まれているので、かなり貴重です。実際、手元にあった
LPと重なっていたのは1枚だけでした。当時は欲しくても全部は買えなかったものが、その一部分でも安価に聴けるようになったのは何よりです。リマスタリングも、
LPと比較さえしなければ充分に聴きごたえのあるものですし。何よりも、このブックレットには、
LPでは見ることのできなかった、演奏しているオルガンの写真がすべてカラーで載っていますから、それだけでも感激です(データが一部間違っているのは、この際見逃しましょう)。
とは言っても、やはり
LPと比べると、その音のしょぼさはどうにもなりません。せめて
SACDにしてくれていたら、さらに、こんな出し惜しみをしないで全アイテムを出してくれたら、と、ないものねだりは果てしなく続きます。何より、ノイズの乗り具合など、今回
2013年に行われたリマスタリングで使われたマスターテープは、劣化が進んでいることがはっきりわかります。もはや取り返しのつかない状態になっているのですね。もっと早い段階でハイレゾのデジタル・トランスファーを行っておけば、というのも、やはりないものねだりです。
CD Artwork © La Dolce Volta