Eric Whitacre/
Eric Whitacre Singers
DECCA/481 0530(10" Vinyl)
エリック・ウィテカーが、自ら結成した合唱団「エリック・ウィテカー・シンガーズ」を率いて録音した最新のアルバムです。それがなんと「
EP」でリリースされました。ということは、「アルバム」ではなく「シングル」?
「
EP」というのは、
1949年に
RCAビクターによって開発されたレコードの規格です。それは、その前年
1948年にアメリカ・コロムビアが開発し、「
Long Playing Record」という名前で商品化した、その名の通り「長時間レコード」いわゆる「
LP」に対抗して出されたもので「
Extended Playing Record」の略称です。いずれもそれまでの「レコード」であった「
Standard Playing Record」、いわゆる「
SP」よりも長時間の再生が可能になっています。
SPは材質がシェラックで、回転数は
78rpm、せいぜい片面に5、6分しか入っていませんでしたが、
LPや
EPでは音溝が思い切り細くなり、収録時間が長くなるとともに、音質もはるかに向上されていました。それは、素材として、シェラックよりも精密な成型が可能な塩化ビニールと酢酸ビニールの共重合体が使われているのが、大きな要因です。「ビニール」というのは「
vinyl」の日本語表記ですが、ネイティヴな発音では「ヴァイナル」となりますから、そのような素材で作られた
LPや
EPのことも、通は「ヴァイナル」と呼んでいます。
LPは回転数が
33 1/3rpm、サイズ(直径)は、
SPと同じ、
10インチと
12インチ、
EPは
45rpm/7インチというのが標準の規格です(ジュークボックスなどでの自動演奏のために、真ん中の穴は大きくなっています)。
EPはサイズが小さい分回転数を上げて、
LP並の音質をキープしているのですね。ほどなく、
LP=アルバム、
EP=シングルという構図が出来上がります。
最近はそんな「ヴァイナル」の方が
CDよりもはるかに良い音であることが分かってきたために、いろいろなところでヴァイナルの新規リリースを目にします。そんな中での、このウィテカーの「
EP」です。収録曲は2曲だけ、タイトル曲はデペッシュ・モードの
1990年のヒット曲のカバー、そして「
B面」には、自作の「
This Marriage」のライブ・バージョンが収録されているという、まさに「シングル」なのです。
ところが、サイズが「
10インチ」だというのが引っかかります。これは、厳密には「
EP」の規格には当てはまりません。ただ、最近では単に「片面に1曲しか入っていないヴァイナル」のことを「
EP」と呼ぶような習慣も出来かかっています。これもそんなノリで使われているのかもしれません。そうなってくると、問題は回転数ですね。「
EP」と言うからには、当然
45rpmだと思うのも、最近では早計なようで(
そうけい?)、
33 1/3rpmでも堂々と「
EP」と言っている場合がなくはないのですよ。
そこで、それを確かめるべく、渋谷にある日本、いや世界最大のクラシックレコードショップに行ってみました。しかし、そこではこの
EPの現物はおろか、そもそもヴァイナルなどは1枚も置いてはいなかったのです。
CDがこの先次第に音楽再生のツールとしては衰退していくことは間違いありません。そんな中でのこのショップの対応は、あまりに楽天的過ぎるように感じられます。
通販で買おうとすると日本の
AMAZONでは
2190円、しかも海外発注で届くまでには3週間もかかってしまいます。しかし、これはネットでも配信されていて、なんと
ハイレゾ音源(24bit/96kHz)が
600円という、ほとんどかつての「シングル」と同じ値段で手に入ってしまいました。結局、「物」としてのヴァイナルは入手できませんでしたが、それと同等の「音」だけは楽しめます。しかし、おそらくヴァイナルのジャケットの裏側には印刷されていたであろう録音データなどは、目にすることはできません。
肝心の音楽は、オリジナルからビートを完全に取り去って、ハーモニーだけで再創造したという潔いアレンジ、かつて「ロック小僧」だったウィテカーには、デペッシュ・モードはこのように聴こえていたのでしょうか。
Vinyl Artwork © Decca, a division of Universal Music Operations Limited