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MacMILLAN/St John Passion
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Christopher Maltman(Bar)
Colin Davis/
London Symphony Chorus
London Symphony Orchestra
LSO LIVE/LSO0671(hybrid SACD)



2008年の4月に行われたジェイムズ・マクミランの最新作、「ヨハネ受難曲」の初演のライブ録音です。2枚組、1時間半という長さの大作、現代の作品でこれだけの大きな「ヨハネ受難曲」といえば、2000年に作られたグバイドゥーリナの同名の曲以来なのではないでしょうか。ちなみにこのグバイドゥーリナの作品は、当初はロシア語のテキストに作曲されたものでしたが、2006年にドイツ語バージョンも作られ、2007年2月にはドレスデンで初演されました。同じ演奏家による、その1週間後のシュトゥットガルトでの再演の録音が出ています(HÄNSSLER/CD 98.289)。
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グバイドゥーリナに比べれば、マクミランの作品は福音書にそのまま沿って作られていますから、物語の進行はバッハの曲のように分かりやすいものになっています。ただし、ここではそのテキストが英語という点が、スコットランドの作曲家としてのアイデンティティなのでしょう。ドイツ語などで慣れ親しんでいたものが英語で語られると、日本人にとってはなにか親密感がわいてきます。そんな物語を語るのはエヴァンゲリストのようなソリストではなく、合唱でした。ここでは、そのための合唱が2つ用意されています。一つは「ナレーション・コーラス」という15人編成のアンサンブル、看護師さんもいます(それは、「ナースステーション・コーラス」)。もう一つは「ラージ・コーラス」という、文字通り100人以上の大きな合唱です。この合唱はイエス以外のキャラクターのセリフや、群衆の叫び声を主に担当しています。そして、イエスだけはバリトンのソリストが割り当てられています。
作品の構成は大きく2つのパートに分かれていて、さらに前半の「第1部」は「イエスの逮捕」、「アンナスとカヤパの前のイエス、ペテロの否認」、「ピラトの前のイエス」、「イエスは死刑宣告を受ける」の4つの部分、後半の「第2部」は「磔」、「キリストの着衣は引き裂かれ」、「イエスと母親」、「叱責」、「イエスの死」という5つの部分のあとに、オーケストラだけの「Sanctus immortalis, miserere nobis(聖なる不滅のもの、彼らを哀れみ給え)」という曲が続きます。
ここで見られるマクミランの作風は、まさに多岐にわたっています。オーケストラは、今の作曲家が用いているあらゆる技法を駆使して、多彩な技で迫ってきます。今となっては懐かしいクラスターや、クセナキスの得意技のグリッサンド、そして、煌めくような打楽器と金管楽器の火花。そんな中で、「ナレーション・コーラス」の語りだけは、ちょっとケルトっぽい旋法で歌われ、不思議な情緒を醸し出しています。
もう一つの「ラージ・コーラス」は、その大人数を最大限に生かして、マクミランの過酷な要求に応えているようです。それこそ騒音に近いシュプレッヒ・シュティンメから、ルネッサンス的な三和音の世界まで、合唱のあらゆる表現をここでは試されている感があります。各曲の最後には、そんな合唱が主役になった、ここだけはラテン語の歌詞によるかなり長いまとまった音楽が用意されています。多少荒々しい、殺風景な流れの中にあって、この部分だけは時間が止まったような体験が与えられます。バッハの曲でのコラールやアリアの役割を、おそらくここが担っているのでしょう。なかでも、「イエスと母親」の最後に置かれた「Stabat Mater」は非常に美しいものでした。同じようにこの曲が一つのハイライトとなっているペンデレツキの名曲「ルカ受難曲」との相似性も、そこからは感じることは出来ないでしょうか。
この年に80歳を迎えたコリン・デイヴィスは、自分に捧げられたこの曲を渾身の力を振り絞って演奏しているように思えます。正直、この老紳士のどこにこんなエネルギーが潜んでいたのかと驚かされる、それは力に満ちたものでした。

SACD Artwork © London Symphony Orchestra, Hänssler Verlag
by jurassic_oyaji | 2009-03-28 19:56 | 合唱 | Comments(0)