きのうの「おやぢ」は、なかなか手応えのあるアイテムでした。単にあのSACDが「偽物」だったことを検証しただけではなく、そのまわりの色々な事柄のうちのなにが真実でなにが「嘘」なのか、ということがずいぶんはっきりしてきたように、私には感じられました。一番いけないのは、通販サイトなどに登場する、代理店の担当者が作ったコメントですね。そのCDを制作した人にもっとも近い位置にある人が書いたものなのだから、いい加減なことなど書くわけがない、と、おそらくこれを読む人は盲目的に信じているのかもしれませんね。たとえば、今回、このSACDのレビューを書いているブログなどをたくさん拝見させて頂きましたが、ほとんどの人がこのコメントの丸写しによって、そのブログを完成させているのですね。そんな危険なことは、とても私には出来ません。大体、「駐露フランス大使館員が、自分の装置で隠し録りをした」なんてことは、1度でもこの録音を聴いていれば書くことなど出来るわけがありませんよ。
なにしろ、代理店が発売する新譜の数は夥しいものですから、それらをいちいち全部聴いているわけなどありませんからね。おそらく、1本を30分ぐらいで仕上げるという「雑」な仕事の成果が、あのコメントなのでしょうから、そんなところに真実など潜んでいるはずはないのですよ。レーベルがよこした資料があれば、それを丸写しするだけ、そこに作為が込められていたとしても、それを確かめるすべはありません。というか、そもそもそういうことをやっているレーベルに、「問い合わせ」をしたとしても本当のことを言うわけなど、あるわけがないじゃないですか。
このアイテムの目玉は、「ステレオ録音」ということだったのですが、そもそも、これが「偽物」だと分かったきっかけは、その「ステレオ」で聴いたときに弦楽器の配置がおかしかったことに気づいたことでした。いっそ、モノで出しておけば、ばれることはなかったかもしれませんがね。皮肉なものです。
DGで録音するときに、なぜ指揮者の意向に背いて対向型をとらなかったのかという点については、おそらく何らかの証言が世に出ているのでしょうね。あいにく私はそんなものを読んだことがないので、勝手に想像するだけなのですが、おそらくステレオ初期の時代では、左からは高音、右からは低音が聞こえてくる、というのが一つの「規格」だったのではないでしょうか。つまり、その程度の分かりやすさが、当時の「定位」の基準だったのですよ。幸い、ステレオが開発されたアメリカでは、オーケストラはそんな風に並ぶのが「一般的」でしたから、それが世界的な基準になっていたのではないでしょうか。そこに、へたに対向型のオーケストラなどを録音したりしたら、聞いている人からクレームが付けられるのでは、と、本気で考えていたのかもしれませんよ。
当時は、モノラルの録音を人工的にステレオにした「疑似ステレオ」というものがありました。これは、バンドパス・フィルターを使って、左側に高音、右側に低音を集めて、ステレオらしい音場を作ったものです。そのような定位がステレオだという暗黙の了解があったからこそ、これは成り立ったものなのでしょうね。