おやぢの部屋2
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ABBEY ROAD A Capella
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Atrium Ensemble
MUSICAPHON/M 56893



最後のアルバムを録音、バンドとしての活動に終止符を打ってからもはや40年が過ぎようとしているというのに、「ザ・ビートルズ」の人気、というか、セールスの勢いは衰えることはありません。あと2ヶ月ほどすると、彼らのすべてのオリジナル・アルバムに最新の技術でデジタル・リマスタリングが施されたCDが全世界で同時に発売になるのだとか、まさに、クラシックに於ける「カラヤン」みたいなアーティストですね。
その、彼らが1969年に録音した事実上のラスト・アルバム「アビー・ロード」(もちろん、その前に録音されていて、1970年になってからリリースされた「レット・イット・ビー」が、「公式」のラスト・アルバム)は、まさに彼らの最後を飾るにふさわしい、高い完成度を持ったものでした。中でも、「Because」や「Sun King」でのコーラス・ワークは、「ロックバンド」としてのスキルをはるかに超えた、そう、クラシック・ファンにさえも満足感を与えるほどの高度のアレンジと卓越したパフォーマンスに飾られたものでした。
そんなところに目をつけたのでしょうか、普段はロマン派の曲、シューマンやブラームスをレパートリーにして活躍している「アトリウム・アンサンブル」という親しみやすい名前(それは「アトホーム」)のドイツの男声4人組のアカペラグループは、フランク・シュヴェンマーというアレンジャーの手を借りて、このアルバムのすべてのナンバーを無伴奏合唱曲として演奏することを思いつきました。そんな、声だけによる「完コピ」という意気込みは、すでにCDのアートワークにも表れています。ブックレットの下の方に見えるのは、ご存じ、オリジナル・アルバムに使われているEMIのアビー・ロード・スタジオの前の横断歩道の写真にフィルターをかけて荒くしたものですし、タイトルの文字もオリジナルのジャケットの裏側からのコピー、もう少し範囲を広げたものが、インレイのデザインにも用いられています。
シュヴェンマーのアレンジは、ですから、オリジナルをとことんコピーしまくった労作となっています。なにしろ、ボーカルだけではなく、すべてのパートを「声だけ」で再現しようとしているのですからね。ギターのソロなどもしっかりそのままのフレーズを歌ってくれているのには、まさに「ご苦労様」と言いたくなってしまうほどです。「Something」のジョージのソロなども、後半のちょっとダルなところまできちんとやってくれていますよ。「A面」最後の盛り上がりも、これは録音技術もフルに動員してあの壮大な「カット・アウト」を実現させていますし。圧巻は、切れ目なくつながっている「B面メドレー」。中でも、「The End」につながるリンゴのドラム・ソロから、ポール、ジョージ、ジョン(だったかな?)3人のギター・バトルにまで「声だけ」で挑戦してくれているのには、涙さえ出そうになってくるほどです。もちろん、隠しトラックの「Her Majesty」も、オリジナル通りの空白の後に聞こえてきます。
と、アレンジのプランには思わず脱帽させられてしまうものの、このグループの演奏のユルさには、閉口してしまいます。さっきの「B面」の「Polythene Pam」の前でなんだかフワフワしたアルペジオみたいなものが聞こえていたのが、あの硬質のギター・カットだったなんて、しばらくしてから気づいたほどですから。何よりもいけないのは、トップ・テナーやバリトンのソロ。こんなシューベルトみたいなアバウトなノリでビートルズを歌われたのでは、たまったものではありません。肝心のコーラスにしても、「Because」の高音のオブリガートなど、「コーラス」に関してはシロートに違いないジョージの方がはるかに的確なピッチとセンスを持っていることに気づくはずですよ。
クラシックのアーティストがビートルズに挑戦するのがいかに危険なことなのかを証明する実例が、また一つの手に入りました。

CD Artwork © Klassik Center
by jurassic_oyaji | 2009-07-08 19:47 | 合唱 | Comments(2)
Commented by ぐすたふ at 2009-07-09 20:01 x
そそられました。
読み始めてすぐ買う決意をして、
最後まで読んで買わない決意をしました(笑)
ん~惜しいですね。
良い企画なのに。
Commented by jurassic_oyaji at 2009-07-09 21:09
ぐすたふさん。
そんなことをおっしゃらないで、買ってあげて下さいな。
突っ込みどころ満載で、楽しめますよ。