Maria Keohane, Anna Zander(Sop)
Carlos Mena(Alt), Hans-Jörg Mammel(Ten)
Stephan MacLeod(Bas), Francis Jacob(Org)
Philippe Pierlot/
Ricercar Consort
MIRARE/MIR 102
最近「ラ・フォル・ジュルネ」などで何かと評判の、フィリップ・ピエルロ率いるリチェルカール・コンソートのバッハです。「マニフィカート」と、
BWV235の「ミサ・ブレヴィス」、そして、それぞれのテーマに関連したオルガン曲がカップリングされているという、粋なアルバムです。
もっと「粋」なのは、録音風景などが収められた
DVDが一緒に入っていること、いわば「メイキング・ビデオ」ですが、これからはこんな形態も増えて
いきのかもしれませんね。というか、実は以前にもヤーコブスの「イドメネオ」でも、同じように録音現場の映像がくっついてきたので、まずそれを見てみたことがありました。しかし、なぜかそのDVDを見てしまったら、本編の
CDを聴く気がすっかり失せてしまったということがあったので、こういう「サービス」も痛し痒しですね。
この
DVDでは、幸いそんなことはありませんでした。それどころか、ぜひきちんと「製品」となった演奏を聴いてみたいと思えるようになったのですから、これは大成功、ヤーコブスの場合とどこが違うのか、それは指揮者の顔、でしょうか(笑)。いや、初めて見た「動く」ピエルロの指揮ぶりは、とてもナチュラルな感じを与えられるものでした。もともとはガンバ奏者だったせいなのでしょうか、指揮の「道具」にはそんなにこだわらず、鉛筆やボールペンを指揮棒代わりにして指揮をしている、というあたりがなにか親近感が湧いてくるところです。レコーディングだけではなく、ちゃんとしたコンサートのシーンもあるのですが、そこでも「鉛筆」での指揮を貫いているのですからね。そういえば、あのドミニク・ヴィスも、来日したときの映像を見ると鉛筆でアンサンブルの指揮をしていましたね。
レコーディングの時のエンジニアとのやりとりを聞いていると、表現とか解釈といったことではなく、もっぱらソリストのバランスなど、テクニカルな話題に終始しているのが印象的でした。もう演奏に関しては練り上げられているので、こんなところでジタバタする必要などさらさら無かったのでしょうね。これも、ゴタクを並べ立てていたヤーコブスのスタッフとは対照的です。
その中で、素晴らしいアルトの声が聞こえてきたので、画面を見てみたら、それは男声アルトでした。このカルロス・メーナという人は、どう聞いても「女声」、この
DVDがなかったら気づかないところでしたね。
ソリストがこの人を含めて全部で5人、それが声楽パートの全てです。そう、これは最近殆ど「主流」となったかに見える、いわゆる「
OVPP」による演奏です。ただ、例えばクイケンあたりは楽器奏者も「1パート一人」という絞りきった編成をとっていますが、ここでは弦楽器は複数の、というか、かなり大人数のメンバーが集められています。
4-4-3-2-1ぐらいでしょうか。ですから、全体的にはかなりふくよかな響きが得られていて、この編成にありがちな違和感は全くありません。テノールのアリア「
Deposuit potentes」のバックのトゥッティのヴァイオリンなどは、録音会場である教会の豊かな残響とも相まって、いともゆったりとした趣を与えられるものでした。
そう、ピエルロの音楽がかもし出すその「ゆったり感」が、全ての点で安心して身を任せられるという快感をもたらしているのですよね。このあたりに、なにか新しい(というか、実際には「古い」と切り捨てられた)波を感じることも可能なのではないでしょうか。
写真を見ると、第2ソプラノのツァンダーはかなり大きなお腹をしています。この録音が行われたのが
2009年の4月ですが、その1ヶ月後にこのチームが来日し、「ラ・フォル・ジュルネ」でこの曲を演奏したときには、このパートだけ別の人に代わっていました。こんな贅沢な「胎教」を受けて、さぞや健やかなお子さんがお生まれになったことでしょう。
CD Artwork © Mirare