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PENDERECKI/Violin Concerto, Horn Concerto
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Robert Kabara(Vn)
Radovan Vlatkovic(Hr)
Krzysztof Penderecki/
Sinfonietta Cracovia
CHANNEL/CCS SA 30310(hybrid SACD)




ペンデレツキの新作、ホルン協奏曲の世界初録音盤です。指揮は作曲者ペンデレツキ自身が行っていますが、演奏しているオーケストラは彼の祖国ポーランドのクラコフ市にある「シンフォニエッタ・クラコヴィア」という、ちょっとアブない病気(それは「クラミジア」)みたいな名前の団体です。
その初録音を聴く前に、まずは、1977年に作られた「ヴァイオリン協奏曲第1番」です。この曲は、今でも忘れられないほどの強烈な印象を与えられたものとして、記憶の中に残っています。とは言っても、別にその作品としての素晴らしさに打ちのめされたというわけではなく、その逆、とてつもない失望感を味わったという記憶です。その時までは、ペンデレツキといえば斬新な音響を伴う全く新しい世界を切り開いた偉大な作曲家という、ある意味畏敬の対象でした。「ルカ受難曲」などは、何度聴いてもその素晴らしさに打ち震えたものです。その作曲家が大御所アイザック・スターンのためにヴァイオリン協奏曲を作ったという噂が聞こえてきました。その演奏はすぐにレコードとなって、メジャーレーベル、米コロムビア(CBS)から発売されました。こんな大物の演奏で、こんな立派なレーベルからの発売、それはなにか誇りに感じられるようなものではなかったでしょうか。ところが、そのレコードを買って聴き始めた時に、そこからはなんと「メロディ」が聞こえてきたではありませんか。それはいとも甘美なものでした。その瞬間、それまでこの作曲家に対して抱いていた「特別なもの」という感情は、見事に崩れ去ったのです。
そんな大昔の痛ましい思い出を伴う曲を、改めて聴き直してみると、ここから作曲家自身の「苦悩」のようなものを感じることが出来たのは、ちょっと意外な発見でした。ロマンティックではあっても、彼がそれまでに親しんでいた技法はそこここに見え隠れしています。これらを完全に捨て去ることが自分には出来るのか、それは、そんな問いかけのようにも聞こえます。やはり、彼も悩んでいたのですね。
それから30年以上経って、2008年に作られたのが「冬の旅」というタイトルを持ったホルンとオーケストラのための協奏曲です。なんでも、これは彼が金管楽器のために初めて作った協奏曲なのだそうですね。ここでも演奏している名手ヴラトコヴィッチによって、すでに同じ年に日本でも初演が行われているのだとか、もはや、過去のしがらみからは完全に解き放たれた「ネオ・ロマンティスト」は、今では別の意味での信奉者も増え、自ら信じた道を突き進むのに、何のためらいもないかに見えます。
そして、この作曲家は、最近ではその道を極めるために、本物の「ロマンティスト」の芸を自らの中に取り入れる、という大胆な作風までも見せるようになっています。彼のもっとも新しい交響曲である「第8番」が、まさにマーラーの「大地の歌」を下敷きにしたものであることは、こちらでご紹介しましたが、今回彼が選んだ「ロマンティスト」は、どうやらリヒャルト・シュトラウスだったようです。
冒頭の、なにやらおどろおどろしい低音のトレモロは、なんだか「ツァラ」のオルガンの低音を思い起こさせるものでした。もちろん、期待通りその後には分散和音のテーマが現れます。なにしろ「ホルン」といえばシュトラウスのアイデンティティといってもいい楽器です。「ティル」や「アルペン」で大活躍するこの楽器のフレーズをつなぎ合わせさえすれば、誰でも「シュトラウス風」の音楽を作り上げることが出来ます。この作曲家は、そこからいったい何を目指しているというのでしょう。
まさにSACDならではの素晴らしい録音で響き渡る極上のサウンド、頭を空っぽにして、本当に空っぽの音楽に浸るのも、たまには良いかもしれません。


SACD Artwork © Channel Classics Records bv
by jurassic_oyaji | 2010-06-10 23:27 | 現代音楽 | Comments(0)