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GIESEKING/Musique de Chambre, vol.1
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瀬尾和紀(Fl)
François Salque(Vc)
朴鐘和, Laurant Wagshal(Pf)
Les Ménestrels/LM-001




世界中で活躍されている今年年男のフルーティスト、瀬尾和紀さんは、今までに何枚かのCDもリリースしてきていますが、最後にNAXOSから2006年に録音されたアルバム(パトリック・ガロワとの共演)が出て以来、ばったり音沙汰がなくなっていたのが、少し気になっていました。しかし、実際はすでに2007年に彼のアンサンブル仲間とによるこのアルバムの録音は完成していたのですね。ただ、それを発売することがなかなかできなかったようです。なにしろ、最近のレコード業界ときたら、暗い話ばかり。ネット配信の台頭によって、CDのような店頭で販売するパッケージの売り上げは激減、数年後にはCDそのものがなくなってしまうなどという噂まで飛び交っているありさまです。現に、大手レコード会社ではクラシック部門などはスタッフも解雇して、制作は下請けに任せているそうですし。
そんな状況ですから、瀬尾さんの作ったこんな地味な音源は、既存のレコード会社ではなかなか手を出すわけにはいかなかったのでしょう。それならばと、瀬尾さんは自分自身のレーベルを立ち上げることにしました。さいわいNAXOSの日本法人であるナクソス・ジャパンが販売元を引き受けてくれたようで、ここにめでたく「レ・メネストレル(吟遊音楽家たち)」レーベルの第1弾CDがリリースの運びとなったのです。
ここで瀬尾さんが取り上げたのが、往年のピアニスト、ヴァルター・ギーゼキングの作品です。特にドビュッシーやラヴェルの演奏にかけて定評のあったこの大ピアニストは、作曲家としても多くの作品を残しており、「フルートとピアノのためのソナチネ」などはリサイタルのレパートリーとして多くのフルーティストによって手がけられているほどです。瀬尾さんはこのギーゼキングの作品に深い関心を示し、遺族たちともコンタクトをとって出版されていない自筆稿なども研究したということです。これは「第1集」ですが、このまま順調にリリースを進めて、この知られざる「作曲家」の全貌が明らかになる日が来ることを、期待したいところです。
今回録音されたのは、チェロとピアノによる「ヴォルガの舟歌による変奏曲」と「演奏会用ソナチネ」、フルートとピアノによる「ソナチネ」と「グリーグの主題による変奏曲」、そして、ピアノ2台による「子供の歌による遊戯」です。いずれも彼が得意としたドビュッシーなどのテイストは残しながらも、もっと軽やかな味が加わった、そう、フィリップ・ゴーベールあたりを彷彿とさせるような印象を与えられるものでした。時折顔を出す東洋的なフレーズも隠し味のような魅力を放っています。
最後に収録されている「グリーグの主題~」は、「叙情小曲集」からの有名なテーマが用いられた大規模な変奏曲です。フルートもピアノも高度なテクニックと、そして音楽性を要求される曲です。瀬尾さんは、そのシンプルなテーマをこれ以上ソフトには歌えないほどに、ていねいに、そして繊細に扱っています。その上での超絶技巧の冴えは、見事としかいいようがありません。そして、それを支えるワグシャルのピアノのこれまた繊細なこと。瀬尾さんのフルートに対峙できるのは、このぐらいの細やかな神経を備えているピアニストだけだという印象を、再確認です。かつて、別の日本人との共演を聴いたことがありますが、そこでプーランクを共演していたピアニストの無神経だったこと。
録音会場が、かつてPHILIPSでの多くの名盤を産んだ「ラ・ショー・ド・フォン」という、フランス料理みたいな(それは「フォン・ド・ボー」)名前のホールです。チェロの力強さ、フルートのきらめき、そしてピアノの繊細さが素直に伝わってくる、素晴らしい録音です。

CD Artwork © Les Ménestrels
by jurassic_oyaji | 2010-07-11 22:43 | フルート | Comments(0)