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MAHLER/Das Lied von der Erde
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Christa Ludwig(MS)
Fritz Wunderlich(Ten)
Otto Klemperer/
New Philharmonia & Philharmonia Orchestras
ESOTERIC/ESSE 90043(hybrid SACD)




杉本一家さんのマスタリングによるSACDでマスターテープのすごさを見せつけてくれたESOTERICのプロジェクト、今まではDECCADGといったUNIVERSAL系列のものばかりでしたが、そこに新たにEMIの音源が加わることになりました。その最初のアイテムに選ばれたのは、クレンペラーの「大地の歌」です。ヨーデルは入ってませんが(それは「ハイジの歌」)。
この演奏、オーケストラが「フィルハーモニア管弦楽団」と「ニュー・フィルハーモニア管弦楽団」という2つの名前が掲載されているというのが、面白いところです。これは、録音している途中でオーケストラの名前が変わってしまったためです。1945年に、EMIのプロデューサー、ウォルター・レッグによって作られた「フィルハーモニア」ですが、1964年の3月(5月という説もあり)に、レッグ自身が解散させてしまうのですよ。その後、「フィルハーモニア」という名称はレッグが所有していたので使うことはできず、「ニュー・フィルハーモニア」という名前になって自主運営という形で再建されるのですが、その「事件」までに録り終えていたのは、1964年2月にキングスウェイ・ホールで行われたセッションでの、ルートヴィヒが歌った部分だけでした。残りのヴンダーリッヒのソロの部分と、ルートヴィヒで録り残した部分は、196411月と1966年7月に、それぞれアビーロード・スタジオで行われたセッションで録音、足掛け2年半もかかって、やっと完成したのですね。
今回、SACDによってそれこそマスターテープそのもののような生々しい音に変わったものを聴いてみると、その録音場所による違いをはっきり聴きわけることが出来ます。ヴンダーリッヒが歌う奇数楽章はすべてアビーロードですが、特に第1楽章の明晰な音には、「これがEMI?」と驚かされてしまいます。一つ一つの音がくっきりと際立って聴こえてくるのですね。中でもグロッケンの音は、まるで耳のそばで鳴っているように飛び出して聴こえます。弦楽器には、なんともつややかな色が加わってますし。そして、ヴンダーリッヒは目の前で大きな口をあけているようなリアルな音場ですよ。
それが、偶数楽章のルートヴィヒのソロになると、様子がガラリと変わります。第2楽章は、最初は弦楽器が弱音器を付けているのでなおさら印象がソフトになっているのでしょうが、後半の弱音器を外した部分でも、なんともあっさりとした音になっています。何よりも、ルートヴィヒの存在感が、ヴンダーリッヒに比べると希薄、なにか布が一枚顔の前に垂れ下がっているようなもどかしさが残ってしまいます。第4楽章のグロッケンも、第1楽章とはまるで別物のようなおとなしさです。ところが、第6楽章になったとたん、そんな印象がまるで変わってしまうのですよ。ソロは前面に出てくるし、弦楽器は生々しさが戻ってきました。ハープやマンドリンの、普段聴こえないような音まではっきり聞こえるのは、まさにショッキング。ですから、おそらくこの楽章だけが、アビーロードで録音されたものなのでしょうね。ライナーにはそのアビーロード・スタジオでの写真が載っていますが、歌っているのはルートヴィヒ、マンドリン奏者と、一人しかいない打楽器奏者は、これが第6楽章であることを示唆しています。
しかし、いくら会場が違ったからといって、これほどまでに音が変わるのは、このような大レーベルではまずあり得ないことです。そこには、やはり「解散前」と「解散後」でプロデューサーが変わってしまったのが、大きな要因になった、と考えるべきでしょう。エンジニアも変わったのかもしれませんね。
そんな、「歴史」の一コマまでもが、このSACDには生々しく記録されているのには、感動すら覚えます。そんな中で、クレンペラーの音楽は、特にアビーロードの明晰な録音の前ではなんとも融通のきかないどん臭いものに感じられてしまいます。

SACD Artwork © Esoteric Company
by jurassic_oyaji | 2010-09-05 22:13 | オーケストラ | Comments(0)