Herbert von Karajan/
Vienna Philharmonic Orchestra
DECCA/UCGD-9003(single layer SACD)
ユニバーサルのとことん音質にこだわったと言われる
SACDは、各方面で絶賛されていたようですね。確かに、エソテリックなどと比べても遜色のない程度の仕上がりにはなっているのではないでしょうか。ただ、そのエソテリックよりもはるかに高い価格設定、というのが、ちょっと気になってしまいます。その金額の差に見合うだけのものがあるか、というと、必ずしもそうとは思えないものですから。特に、本体の出しにくいこと。
その、シングルレイヤー
SACDシリーズの第2弾としてリリースされたのが、カラヤンとウィーン・フィルの「ツァラトゥストラ」です。これは、このコンビが初めて
DECCAに録音したという記念すべきレコードです。そのセッションが始まったのが
1959年3月9日、それは、その時のプロデューサーであったジョン・カルショーの回想記「
Putting the Record Straight」で述べられている日付ですから、たぶん間違いはないのでしょう(他のディスコグラフィーなどでは、別の日付になっています)。この回想記は山崎浩太郎による「レコードはまっすぐに」という乱暴なタイトルの(それは「レコードは
マッスルに」)
日本語版が出ていますので、ぜひ読んでみて下さい。
LPとして発売されたときには、この曲1曲だけしか入っていないという当時としては仕方のない処遇でした。曲の途中でレコードを裏返す、という、今では信じられないような「儀式」が必要だったのでした。
もちろん、いかに
SACDといえども、「ツァラ」1曲だけで
4500円などと言ったら、いくらなんでもひどい話ですから、今回はもう少し後のセッションで録音されていた「ティル」と「7つのヴェール」、そして「ドン・ファン」がカップリングされています。これらの曲のオリジナルのリリース形態は、「ドン・ファン」はチャイコフスキーの「ロメオとジュリエット」とのカップリング、「ティル」と「ヴェール」は「死と変容」とのカップリングの
LPでした。ちなみに、今回のジャケットにはその最後のシュトラウス集の
LPのものが使われています。決して「ツァラ」がメインではないのだぞ、というユニバーサルの意志のあらわれなのでしょうか。
実は、今回の
SACDと全く同じカップリング(曲順も)で
2000年に出ていたのが、こちら(
466 388-2)です。
さらに、
2008年には、カラヤンが
DECCAに残したすべての録音のボックスが出ましたが(
478 0155)もちろん、この中にも今回の曲はすべて入っています。
そこで、その3者の間で、音を比較するというのが、何よりの楽しみとなるわけです。大いに期待した
2008年盤が、なんとも平板な音だったのにちょっと失望したことがあるものですから、
SACDには期待が高まります。ところが、「ツァラ」の有名な冒頭部分は、ほとんど変わらないのですね。
2000年盤では、ヒスノイズが極端に少なくなっているのでノイズ・フィルターのようなものがかかっているのが分かるくらい、
2008年盤で気になった、ファンファーレを吹くトランペットの薄っぺらな音が、そのまんま聞こえてきたのには、がっかりしてしまいました。ただ、そんな喧噪が終わって、ヴァイオリン1本、ヴィオラ2本、チェロ3本というアンサンブルが甘美に歌う部分になると、これははっきり別物であることが分かります。こういう繊細な所でこそ、
SACDの本領が発揮できるのですね。
広く知られているように、この音源はキューブリックの「
2001年宇宙の旅」の中で使われたものです。ただ、長いことサントラ盤に入っていたベーム盤が、映画でも使われていたと(当然ですが)信じられていた時代がありました。そのあたりの細かい事情は
こちらにまとめてありますが、先ほどのカルショーの回想記の日本語版が出たことによって、もはやこのカラヤン盤であることは間違いのない事実として受け入れられるようになったのです。それでも、未だにベーム盤だと信じてこんでいる人がいるのが気の毒でなりません。
SACD Artwork © Decca Music Group Limited