おやぢの部屋2
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Norwegian Wood
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1966 Quartet
松浦梨沙, 花井悠希(Vn)
林はるか(Vc), 長篠央子(Pf)
DENON/COCQ-84856




ビートルズナンバーをクラシック風にアレンジしたという、ありきたりのアルバムなのですが、雑誌の広告でこのCDのジャケットを見たとき、猛烈に「これは手に入れたい!」と思ってしまいました。いや、ここに写っている、眉の形をすべて今の流行に揃えている、見事に個性をなくした主体性のないファッションの女性の写真に惹かれたわけでは決してありません。それは、このジャケット全体のデザインに、ただならぬこだわりを見いだしたからに他なりません。誰でもすぐ分かるように、これはあの「ザ・ビートルズ」が1963年に発表したセカンドアルバム、「With the Beatles」をもとに、とてもていねいにパロディに仕上げたものだったからです。これがオリジナル。
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4人のメンバーの顔の右側から光を当てたモノクロ写真、というこのジャケットのインパクトを生んでいる要素が、まずきっちり押さえられているのが、うれしいところです。なにしろ、4人の顔の位置関係、大きさなどまで、きっちりとオリジナル通りのプロポーションになっているのですから、感動すら覚えます。さらに、涙が出るほどうれしいのが、レーベルのマークですよ。もちろん、マークもロゴも全く別物なのですが、四角い枠に付けられたグラデーションのおかげで、オリジナルの雰囲気がそっくりそのまま表現されています。秀逸、というよりほかはありません。
このアルバムのプロデューサーが高嶋弘之だと聞けば、そんなところまでしっかりこだわったジャケットが出来上がったのは納得できます。「自称」ヴァイオリニストの高嶋ちさ子の父親としてつとに有名ですが、彼はそもそもはビートルズのアルバムを日本で販売していた「東芝音楽工業(現EMIミュージックジャパン)」でのビートルズ担当のディレクターだったのですね。彼の仕事の一つは、国内盤を発売する際の邦題の作成。たとえばこのアルバムのタイトルとなっている「Norwegian Wood」を「ノルウェーの森」などという、元の歌詞を全く顧みないとんでもないものに変えてしまった邦題などが、彼の「作品」になるわけです。困ったことに、これは小説のタイトルなどにもなって世に広まってしまいましたから、もはや取り返しのつかない事態となっています。ここには収録されてはいない、「Ticket to Ride」の邦題「涙の乗車券」が今ではまず使われることはなくなっているのが、せめてもの救いでしょうか。
そんな、ビートルズに最も近い位置にいながら、微妙にピントのずれたことをやっていた人の作ったアルバムは、ジャケットこそは高い完成度を示したものの、音楽としてはなんとも中途半端な出来にしか仕上がってはいませんでした。いや、中には、なかなかいい仕事をしているものもありますよ。「I Want to Hold Your Hand」(これも、高嶋にかかると「抱きしめたい」ですからね)などは、とてもクラシックのアーティストの片手間仕事とは思えないほどのグルーヴが醸し出されていますしね。「While My Guitar Gently Weeps」のイントロのピアノも、最初のうちはオリジナルと同じ思想を感じられるものでした。しかし、硬質な打鍵の後で、ペダルを使ったアルペジオが出てきたとたん、それは見事に消え去り、お決まりの勘違いの世界が広がってしまうのですがね。
最大の勘違いは、「Eleanor Rigby」。もともと、弦楽器だけといういかにも「クラシック風」のオケを持った曲なのですが、同じ楽器でそのまま演奏すれば「クラシック」になるのだと、安易に考えたところに落とし穴がありました。編曲者の加藤真一郎が用意した譜面からは、なぜかジョージ・マーティンのセンスが漂ってくることはなかったのです。
ジャケットで見せたパロディの精神を忘れ、ひたすら出来の悪いコピーに走ってしまったことが、敗因だったのでしょう。ロックを甘く見てはいけません。

CD Artwork © Nippon Columbia Co., Ltd.
by jurassic_oyaji | 2010-11-23 21:05 | ポップス | Comments(0)