おやぢの部屋2
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BACH/St John Passion
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Charles Daniels(Eva)
Stephan Varcoe(Jes)
Peter Seymour/
Yorkshire Baroque Soloists
SIGNUM/SIGCD209




バッハの「ヨハネ受難曲」の最新録音です。演奏しているメンバーが、なんとも懐かしい名前だったものですから、ためらわずに入手しました。この、ピーター・シーモア指揮のヨークシャー・バロック・ソロイスツというチームは、モーツァルトのレクイエムの補筆版の中でもユニークさという点では群を抜いていた「ドゥルース版」を録音していた、数少ないアーティストの一つだったのですよ。というより、そもそもその版の産みの親であるダンカン・ドゥルースというヴァイオリニストは、このアンサンブルのコンサートマスターで、「ドゥルース版」は彼らが演奏するために作られたものだったのです。
彼らがその「ドゥルース版」を録音したのは1991年でした。それから20年近く経っての今回の「ヨハネ」ですが、メンバー表を見ると、さすがにドゥルースの名前はありませんでしたが、ヴァイオリンやヴィオラには、まだ当時のメンバーが残っているのには、ちょっと嬉しくなりました。
合唱団も、かつては「Yorkshire Bach Choir」という別の名前を持っていましたが、今ではこの「ソロイスツ」の中に一緒に揃いすつあるのでしょうね。20人ほどのそのメンバーは、おそらくすべてプロフェッショナルな声楽家なのでしょう。ここでは、アリアはすべてこの合唱団のメンバーによって歌われています。
モーツァルトでは超ぶっとんだ版を使っていた団体ですから、この「ヨハネ」でも、まず気になるのはどんな版で演奏しているか、という点です。しかし、あいにく(笑)彼らが使っていたのはごく一般的な新バッハ全集でした。5つある版のうち、第2稿と第3稿は曲の中身が違うのですぐ分かりますが、第1稿と第4稿、そして新バッハ全集の元になった未完のスコアを見分けるには、9番のアリア「Ich folge dir gleichfalls mit freudigen Schritten」が役に立ちます。詳細はこちらを参照して下さい。
今回の彼らの編成は、合唱はわりと大人数なのに、オーケストラの弦パートはそれぞれ一人+コンマスという、なんとも慎ましいものになっています。1曲目ですでにヴァイオリンの十六分音符の音型が管楽器に消されて全く聞こえてこないのですから、なぜこんな少ない人数なのか理解に苦しみます。モーツァルトの時には、ヴァイオリンだけで9人もいたというのに。
合唱に関しても、数々の「?」がついて回ります。それだけの人数なのですから、たっぷりとした表現をとるのだと思いきや、なんとも素っ気ない表情付けに終始しているのですからね。特に異様なのがコラールの歌い方です。一つ一つの音符をぶつぶつ切って歌うというもの、それはやたら攻撃的、時にはまるで行進曲のような「力強さ」まで備えているもので、そこにはコラールらしい流れる音楽は全く見あたりません。すべてのコラールがこの歌い方で徹底されているからには、何か特別な意味があるのでしょうが、それは到底理解することは出来ません。
アリアもかなり悲惨です。一応なにがしかの経歴を背負った人たちなのでしょうが、まずその歌にはぴりっとした存在感のない人が殆どでした。先ほどの9番のアリアを歌っている人は、フレーズの終わりに不思議な「タメ」を持っていて馴染めませんし、35番の美しいソプラノのアリアも(これは別の人)、テンポが異様に遅くて、息切れしています。
そんな、ちょっと不思議な流れに支配されて、とても「憩う」気持ちになれないのが、最後から2番目の合唱「Ruht wohl(憩え、安らかに)」です。常にゴツゴツとした動きにじゃまをされていて、決して滑らかな流れが出て来ないのですよ。これはもしかしたら、ヨークシャーの田舎でしか通用しないようなローカルなバッハなのかも。

CD Artwork © Signum Records
by jurassic_oyaji | 2010-12-07 23:16 | 合唱 | Comments(0)