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BRUCKNER/Symphonies Nos. 6 & 8 in Full Score
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Dover
ISBN978-0-486-47231-7




ブルックナーの交響曲第8番の楽譜には、4種類のバージョンが存在しています。まずは最初に作った「第1稿」(1887年、出版されたのは1972年)。そして、ブルックナーお約束の改訂の結果、「第1稿」の3年後、1890年に出来上がったものが「第2稿」ですが、1892年に出版された時には弟子のヨーゼフ・シャルクによって少し手が入れられていました。これが「第2稿シャルク版」です。もちろん、今ではこのような改竄された楽譜を使う指揮者はおらず、戦前の「ハース版」(1939年)や、戦後の「ノヴァーク版」(1955年)が一般的に用いられています。この2つのバージョンは、ともに「原典版」としてきちんと校訂されたものなのですが、校訂者の趣味によって、その中身はかなり異なっています。特に、第3楽章と第4楽章は小節数まで違っています。これは、ハースが、ブルックナーが「第2稿」を作る際にカットした部分を、みずからの裁量で復活させているためです。ノヴァークは、あくまで作曲家の意志を尊重した、と。
ところで、この曲のポケット・スコアは、「ノヴァーク版」は日本の出版社からリプリント版が出ていますから、普通に購入することが出来るのですが、「ハース版」はオリジナルのものはとっくの昔に絶版になっていますから、唯一市場にある「海賊版」を購入するしか道がないのですね。それは、すり減った版下を用いた粗悪極まりない印刷のものが5000円以上もするというべらぼうな商品だというのに。
そんな時に、Doverという出版社から、新しくこの8番の楽譜が出版されました。それは去年の10月のこと、まさに「新譜」ですね。これは8番だけではなく6番とカップリング、それでいて価格は2000円ちょっとという、リーズナブルな商品です。実は、この出版社からブルックナーの交響曲が出たのはこれが2冊目、以前は4番と7番の組み合わせでした。そして、何より嬉しかったのは、その元となった楽譜が「ハース版」だったことです。もうパブリック・ドメインとなっている楽譜を安く販売する、というのがこの会社のポリシーですので、こんな、今まで手に入りにくかったものが逆に簡単に、しかも安く買えることになったのですね。
ですから、今回出た6番と8番も、当然「ハース版」だと思うじゃないですか。いや、現にDover自体も、「ハース版で出ます」という内容で予約を取っていた、というのですね。Doverのサイトでは、なぜか6番だけですが、印刷見本がありましたが、それも非常にきれいな版下が使われているようでした。
ですから、なにもためらうことなく、この新しい楽譜をAmazonで購入しました。しかし、届いたものを見てびっくりです。6番こそ見本通りのきれいな印刷でしたが、8番の方はなんともひどい、例えばFAXで送ったものを何度もコピーを繰り返したようなものだったのです。五線は波打ってますし、音符や活字はすり減っていますよ。
こんなガタガタの印刷の楽譜、なんだか前にも見たことがあったような気がしました。それは、あのIMSLPという、楽譜が自由にダウンロードできるサイトで提供される楽譜です。このサイトにはこのブルックナーの8番のスコアもありました。それが、なんとこのDoverの楽譜そのままだったのですよ。かすれ具合やゆがみ具合が、どこを取ってみても一致しているのです。このサイトの説明によると、これは1892年の楽譜、つまり「シャルク版」に由来するものなのだそうですが、もちろんその特徴(第4楽章が4小節分カット)も全く一致しています。
アメリカイギリスAmazonに寄せられたコメントを読んでみると、てっきり「ハース版」だと思ってこれを買ってしまった人が怒り狂っていました。「こんなものは、買うな!」と。ほんと、これはほとんど詐欺ですよね。せめてサンプルに8番の見本でもあればよかったのでしょうがね(だから謀反がおこるんです)。

Score Artwork © Dover Publications Inc.
by jurassic_oyaji | 2011-01-28 21:33 | 書籍 | Comments(0)