おやぢの部屋2
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By the River in Spring
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Kenneth Smith(Fl)
Paul Rhodes(Pf)
DIVINE ART/dda25069




世の中にはたくさんのフルーティストがいますが、ケネス・スミスほどセンスの良い演奏を聴かせる人はいないのではないでしょうか。派手さこそないものの、確かなテクニックに裏付けられたパッセージは言いようのない説得力をもち、その音色は澄み切って、ロングトーンだけでも人を魅了する力を持っています。30年近く首席奏者を務めてきたフィルハーモニア管弦楽団の中での演奏は数多くのCDで聴くことが出来ますが、そこからは常に彼にしかなしえないハイレベルのフルートが味わえます。
ソリストとしても、ピアニストのポール・ローズとのコンビで多くのアルバムを出しています。1990年代にはASVから5枚、イギリスの作曲家を中心にした珠玉のようなアルバムを残してくれていましたが、最近になって、今度はDIVINE ARTから、同じ録音スタッフによるアルバムが出るようになりました。先日の「A Song without Words」がその最新のものだったのですが、そのライナーにあった録音リストの中には、まだ入手していないものが1枚ありました。それがこのCD、注文はしてみたものの、国内には在庫がなかったようで何度も何度も「もう入荷する見込みはないので、いい加減キャンセルしてくれ」というメールが送られてきます。そんな脅しにもめげず、根気よく待っていたら、ほら、晴れて手に入ったではありませんか。あなたにもきっといい人が見つかりますって(それは「婚期」)。
このアルバムでは、ASV時代からのスミスのライフワーク、ほとんど知られていない20世紀に活躍したイギリスの作曲家の作品が演奏されています。全部で8人の作曲家が登場しますが、そのうち馴染みがあるのはせいぜいハミルトン・ハーティぐらいのものでしょうか。しかし、曲そのものはいかにもイギリスらしいオーソドックスなスタイルの親しみやすいものばかりです。それらをていねいに歌い上げているスミスの演奏によって、全く知らない曲でも極上の一時を過ごせることは間違いありません。
そのハーティの「In Ireland」という曲では、アイルランドの雰囲気を伝えるメランコリックな部分と軽快な踊りの部分が交代で登場します。いかにリズミックな部分でも、決して羽目を外すことのない上品さは、まさにスミスならではの持ち味でしょう。アルバムのタイトルともなっている「By the River in Spring」という曲を作ったマイケル・ヘッドは、歌曲や合唱曲の作曲家として知られていますが、ここでも「うた」が満載、カデンツァが少し入る程度で、メカニカルな部分はほとんどありません。そこからは、豊かな自然の息吹が伝わってくるよう。
この中でちょっと異色なのが、ウィリアム・オルウィンのフルート・ソナタです。3つの部分が続けて演奏されますが、最初の部分は半音進行が多用される、ちょっと取っつきにくいテイストを持っています。中間部は、アダージョ・トランクイロの静かな音楽ですが、やはり入っていきづらい冷たさがあります。そして最後にはなんとフーガの登場です。まるでエチュードのような跳躍の多い不思議なテーマ、さすがのスミスもちょっと苦しそう、なんと言っても録音が行われたのは2007年で、そろそろ還暦に手が届こうという時ですからね。
ここには少し前の録音も入っています。元々はヴァイオリンのためのソナタだったケネス・レイトンのフルート・ソナタも、1996年に録音されています。さすがにこの頃はまだ勢いがあったことが良く分かります。ちょっとディーリアスっぽいこの曲の最後の楽章のタランテラ風のパッセージでの技術の冴えはさすがです。そして、曲の最後でのとてつもないディミヌエンドは、まるで神業。
しかし、2007年の録音でも、エドワード・ジャーマンの「Gypsy Dance」のような同じような難しい曲を軽くあしらっているのですから、まだまだ衰えてはいません。この先もまだまだ楽しませて欲しいものです。これで、彼のソロアルバムのディスコグラフィーも完成しました。

CD Artwork © Divine Art Record Company
by jurassic_oyaji | 2011-06-30 20:18 | フルート | Comments(0)