おやぢの部屋2
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CAGE/Sonatas and Interludes
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Nora Skuta(Prepared Piano)
HEVHETIA/HV 0011-2-131(hybrid SACD)




全く聞いたことのないスロヴァキアのレーベルから、ケージの「プリペアド・ピアノのためのソナタとインタールード」がリリースされました。しかも、SACDで。ただ、よくよく見ると録音は2004年、リリースは2005年という、かなり前のものでした。なんせ旧東ヨーロッパですから、今頃になってやっと日本国内でお披露目ということになったのでしょう。
このHEVHETIA(「ヘヴヘティア」でしょうか)というレーベルは、クラシックだけではなくジャズやワールド・ミュージックなども幅広く扱っているところのようですね。サイトをのぞいてみたら、大昔に出たペンデレツキの「ルカ受難曲」のポーランド初演盤なども「新譜」として紹介されていましたので、他のレーベルのライセンス・イシューなども行っているのでしょう。
ここでプリペアド・ピアノを演奏しているノラ・スクタというまるで農家の働き者の嫁のような名前(それは、「野良、救った」)のピアニストは、写真ではまだまだ若い美しい女性です。なんでも、1992年に、ジョン・ケージその人の前で、かれの作品を演奏したのが、最初のプリペアド・ピアノの体験だとか、今では「現代」音楽のスペシャリストとして大活躍しているのだそうです。このSACDの録音も、プロデューサーは彼女自身です。
作品自体は、他のCDで何度も聴いたことがあったので、今回は24bit/88kHz(?)PCMで録音されたものをDSD変換したSACDで聴くという「ハイレゾ」体験が期待をそそります。プリペアド・ピアノをSACDで聴くのは、これが最初のことでしょうから。
驚いたことに、それは、期待をはるかに超える体験でした。もちろん、マイクのセッティングなども完璧だったのでしょうが、そこには、まさにプリペアされたスタインウェイのフレームの中に頭を突っ込んだようなリアルなサウンドが広がっていたのです。弦に挟まれたボルトやワッシャー、そしてネジや消しゴムまでが、まるでそれ自体が命を持ったかのように、それぞれの役割を主張している様が、はっきりと伝わってくるのですね。ハイブリッドSACDですから、試しにCDレイヤーに切り替えてみると、そこからはそんな「生命感」はものの見事に消え去っていましたよ。
そんな環境でこの作品を聴き直してみると、そこには今まで感じられなかったような「美しさ」が潜んでいることに気づきます。一つ一つの曲たちは、それぞれに異なったキャラクターを主張していることが、はっきり分かります。次の曲ではどんな楽しみが待っているのか、といった期待が、次々に味わえるのですね。
それと、実は、この作品は「ケージ」と聞いて連想されるある種の「いい加減」さとはちょっと違った、もっと古典的な秩序のもとに作られていて、「ソナタ」などでは、きちんと同じことを繰り返したりもしていますし、曲集全体もシンメトリカルな構成をとっているのですが、そんな作品を、ライナーで「これは、現代と、ヨーロッパの鍵盤音楽の伝統とをつなぐ、あり得ないような架け橋だ」と言いきっているスクタの演奏は、一見無機的な音列の中から、確かにそんなバロックあたりの舞曲にも通じるようなテイストを見出そうとしているかのように聴こえてきます。プリペアされた個々の音は、音色や肌触りを変えながらも、常に確固たるフレーズ感をもって「言葉」を発しているかのよう、ケージの音楽の中から「メロディ」を発見するというスリリングな体験を、彼女は与えてくれていたのです。
実際、例えば最後の「ソナタ16番」などからは、バッハの「パルティータ」と同じ感触を得ることは出来ないでしょうか。その一つ前の「14・15番」は、軽やかなビートに乗った「現代風」のミニマル・ミュージックだというのに。

SACD Artwork © Hevhetia
by jurassic_oyaji | 2011-10-16 19:43 | 現代音楽 | Comments(0)