Karel Ancerl/
Czech Philharmonic Orchestra
SUPRAPHON/COCQ-1007(single layer SACD)
1年ちょっと前に、日本のユニバーサルが1枚
4500円という強気の価格設定でシングル・レイヤー、非圧縮データによる2チャンネル・ステレオの
SACDを発売した時には、正直どこまで受け入れられるか不安なところがありました。確かに音は間違いなく向上していますが、こんな値段で大丈夫なのかな、と思ったのですね。しかし、どうやらそれは杞憂だったようでした。
DGや
DECCA、
PHILIPSの、主にアナログ録音を音源にしたユニバーサルの
SACDは、順調にユーザーには受け入れられ、次々とリリースは続けられています。やはりこの世界、良いものを作れば確実に売れるのでしょうね。マニアの底力、でしょうか(「
火事場の馬鹿力」ではありません)。
そんな流れが、ついに他のメーカーにも及んできました。まず、
EMIミュージック・ジャパンが、なんとフルトヴェングラーの音源を
SACD(ハイブリッドですが)で出したのです。なんとマニアックな。最近はレパートリーがアルゲリッチやラトルまで拡がってきたので、一安心ですが。
そして、ここに来て日本コロムビア(いつの間にか、昔の社名に戻っていましたね)が、ユニバーサルと同じスペックのシングル・レイヤー
SACDを出してきました。価格まで
4500円と一緒です。その最初のリリース分の中に、以前
XRCDで出ていた
アンチェルの「新世界」があったので、ものは試しと入手してみました。これはまさに、現時点での最高のCDと、最高の
SACDとの対決ですね。
コロムビアの
SACDの本体は、ユニバーサルのものと全く同じ外観をしていました。全面緑色のコーティング、文字は最外周に小さく印刷されているだけ、というのも、それぞれに音質を最重視している結果なのでしょう。それよりも、帯に印刷されたこのSACDの説明書きが、テキストも画像も全く同じなのですから、そもそも全く同じところで製造されていることがうかがえます。ただ、ユニバーサルの非常に取り出しにくいケースは、コロムビアではデジパックになっていますので、扱いやすさに関しては雲泥の差があります。しかし、ユニバーサルでは曲がりなりにもどこでマスタリングが行われたかというクレジットが入っていましたが、コロムビアにはその様な情報が一切記載されていないのが、気になります。もちろん、ビクターの
XRCDにはしっかり杉本さんのマスタリングであることが明記されています。
その音は、確かにものすごいものでした。驚くべきことに、それは
XRCDをもはるかに凌いでいたのです。まず、最初に聞こえてきたヒスノイズの大きさからも、これはマスターテープの情報をくまなく収めたものであることがうかがえます。
XRCDは、ヒスノイズも小さめですが、その分、音の切れ味がワンランク下がっているような感じがしてしまいます。ですから、ここでは、
XRCDを聴いた時に圧倒されたティンパニのアタックはさらに鋭利なものになり、トライアングルはますます前面に飛び出すようになっていました。以前、ミュンシュのサン・サーンスで
SACDとXRCDを比較した時には、明らかに
XRCDの方が優位に立っていたというのに、これはどうしたことでしょう。同じ
SACDとは言ってもあちらは圧縮データのハイブリッド(
SHM ではないというのも、要因として挙げるべきでしょうか)、つまり、非圧縮でシングル・レイヤーだと、ここまで違ってくるということなのでしょうか。
確かに、この
SACDはとてつもない情報量を持つものでした。しかし、その情報の中には、マスターテープの劣化状態のような、あえて表に出さなくてもいいようなものまで含まれているような気がしてなりません。それは、ベームのブラームスのユニバーサル盤でも感じられたことです。杉本さんは、ここでは本能的にそのことを察知して、ちょっとおとなしめの音にまとめたのかもしれません。あるいは、杉本
XRCDでははっきり聴こえる第4楽章のドロップアウト(
00:41付近)が、この
SACDでは全く聴こえないことから、そもそものソースの出所が違っていたのかもしれませんね。
SACD Artwork © Supraphon