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音楽力が高まる17の「なに?」
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大嶋義美著
共同音楽出版社刊
ISBN978-4-7785-0317-8



オーケストラで用いられる楽器は数々ありますが、世界的なオーケストラともなると、使っている楽器も世界最高のものばかりです。そんな楽器のメーカーは、なんと言っても由緒正しい外国の会社と決まっています。木管楽器だったらオーボエはフランスのロレー、クラリネットはやはりフランスのビュッフェ・クランポンか、ドイツのオーケストラだったらエーラー管のヴルリッツァーあたりでしょうか。ファゴットもドイツのヘッケルでしょうね。モーツァルトの作品番号ではありませんよ(それは「ケッヘル」)。
ところが、フルートに限っては、日本のメーカーの製品が使われていることが結構あるのですよ。なんせ、「世界最高」のオーケストラであるウィーン・フィルでは、ヴォルフガング・シュルツが「ムラマツ」を使っていましたし、その後継者のワルター・アウアーも「サンキョウ」を愛用していますからね。もう一つの「世界最高」であるベルリン・フィルでも、アンドレアス・ブラウが「ムラマツ」ですし、何よりも在籍中はイギリスの楽器を使っていたジェームズ・ゴールウェイが、フリーになったらやはり「ムラマツ」を何本も購入しましたね。彼の現在の愛器「ナガハラ」だって、日本のメーカーで修行した人が作った工房ですしね。さらに、ロイヤル・コンセルトヘボウのエミリー・バイノンは「アルタス」と、まさに「石を投げれば日本製のフルートを使っている人にぶつかる」というのが、今の世界のフルート界なのですよ。
おそらく、そんな中で最大のシェアを誇る「ムラマツ」では、顧客を相手に「メンバーズ・クラブ」というのを作っていて、定期的に会報を発行するなど、さまざまなサービスを行っています。余談ですが、最初のうちは会報と一緒に珍しい楽譜のリプリントなどが送られてきたものですが、それは程なく毒にも薬にもならないようなオリジナルの編曲ものに変わっていきました。その程度のものでは到底会費には見合わないので、退会を考えている人は多いのではないでしょうか。
ただ、その会報では、時折ちょっとハッとさせられるような連載があったりします。確か、ムラマツが主催したプラハのオーケストラの首席奏者のオーディションで見事当選(いや、「合格」)したのが、キャリアのスタートとなったフルーティスト、大嶋義美さんがこのところ書いているエッセイも、そんな読み応えのあるものです。そんな、会員の目にしかとまらないようなメディアでだけの露出ではもったいないと、その中のいくつかを抜粋したものが、このたび刊行されました。タイトルだけを見ると、良くあるハウツーもののように感じられるかもしれませんが、これはそんな安っぽいものではなく、確かに一人の演奏家が音楽にかける情熱を見事に表現した、奥の深い読み物です。
まずは、「音楽」そのものについて、あまり人が知らないようなことをかなりマニアックに語る部分が、なかなかのものです。ただ、このあたりは、読み進んでいくとなんだかどこかで読んだことがあるような部分が頻繁に出てくるのが気になります。それは、確かに普通の「常識」とはちょっと異なる、「真実」を語る部分なのですが、その手法がかなり特徴的なだけに、それと同じものを読んだ記憶がかなり強く残っているものなのですね。その「デジャヴ感」の原因は、巻末の「参考図書」を見て判明しました。それらの大半は、読んだことがあるものだったのですよ。どうりで。
ですから、本当に読むべきは、その様な「借り物」ではなく、著者の体験がそのまま反映された「弟子」とか「留学」とか「練習」といった項目なのでしょう。もしかしたら「学習者」にしか通用しないような事柄を通じて、著者は見事に「音楽を愛すること」という、全ての音楽人に求められる資質を語りきっているのですから。

Book Artwork © Kyodo-Music
by jurassic_oyaji | 2012-04-11 20:19 | 書籍 | Comments(0)