Lawrence Golan/
Lamont Symphony Orchestra
ALBANY/TROY 1300
「
7」と言っても、
Windowsの
OSじゃないですよ。これは、ベートーヴェンの交響曲第「
7」番のことなのですが、それだけではなく「
7.1」番まであるというのが、謎ですね。
これはどうやら「セブン・ポイント・ワン」と読むようです。ローレンス・ゴランというヴァイオリニスト出身の指揮者は、最近は「ポイント・ワン・シリーズ」というプロジェクトに熱心に取り組んでいます。それは、今回はベートーヴェンの「7番」に対して、「セブン・ポイント・ワン」番というように、アプリケーションのバージョンのような番号を付けて「バージョン・アップ」を図ったものを作ろうという企画なのでしょう。「
7」の前は「
6」ということで、チャイコフスキーの「悲愴」をもとにした「
6.1」を作ったのだそうです。もちろん、チャイコフスキーやベートーヴェンにそんなことをやらせるわけにはいきませんから、この「バージョン・アップ」の仕事はまだ生きている作曲家が行うことになります。今回はウィリアム・ヒルという作曲家が引き受けることになりました。
これは言ってみれば、ベートーヴェンの交響曲第7番の素材を使って、新たにより進んだバージョンの曲を作り上げるという作業なのでしょう。彼は
2009年の秋から
2010年の1月にかけてこの曲を作り上げ、その年の3月に「
7」と「
7.1」を合わせて演奏会を開き、それとは別に録音セッションを設けてこんな
CDも作ってしまったのです。
オーケストラは、ゴランが音楽監督を務めている、アメリカのデンバーにある「ラモント音楽大学」の学生や卒業生などがメンバーの「ラモント交響楽団」です。まずは、しっかり原曲であるベートーヴェンの作品を味わって
ごらんと、「交響曲第7番」が全曲演奏されています。おそらく、この曲の中にあらわれるテーマや、その展開のされ方を頭に入れておいてもらった上で、「新曲」を聴いてもらおうという趣向なのでしょうね。
しかし、この演奏は何とも気の抜けた、緊迫感のかけらもないいい加減なものでした。いわば「大学オケ」ですから、実力はそれほど期待できないとしても、いやしくも
CDとして全世界で販売するに値する水準とはとても言えません。なにしろ、弦楽器と管楽器が全く別の方向を向いているものですから、オケとしてのアンサンブルはもう最初からグジャグジャなうえに、指揮者が全体をドライブしようとする姿勢が全く見えてこないのですからね。第2楽章などはピリオド風を気取ってやたらと速いテンポになっていますが、それはただ何も考えずに流しているにすぎません。
そういう団体が取り組んだ「
7.1」は、そんな無気力なベートーヴェンを恫喝するかのような勢いのよいサウンドで始まります。第1楽章のテーマである「タンタタン」というリズムが、執拗に繰り返され、そこにパニック映画にでも出てきそうな大げさな音楽が乗るという、「イケイケ」の趣味かと思っていると、「のだめ」のテーマである第1主題がなんと短調になって現れて、思わずのけぞってしまいますね。後半になると、第2主題も、前半だけが減和音の響きで、なにか追い込まれるような感じで出没しています。
「
7.1」は3楽章形式、第2楽章には最初と最後に「
7」の第2楽章のモチーフが使われ、真ん中に第3楽章の要素が挟まっています。それもやはりスケルツォ-トリオ-スケルツォという形ですから、まあ、シンメトリックと言うべきなのでしょうね。
第3楽章は、もちろん「
7」の第4楽章のテーマが元になっています。時折7拍子になってているのがミソでしょうか。
というように、これを聴かされて一体どのように反応していいのか困るような、なんとも中途半端な曲です。いったいどこまで真面目に取り組んだものなのか、あるいは、最初から笑いを取りに行っているのか、このプロジェクトの真意は謎に包まれています。
CD Artwork © Albany Records