おやぢの部屋2
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British Flute Concertos
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Emily Beynon(Fl)
Bramwell Tovey/
BBC National Orchestra of Wales
CHANDOSS/CHAN 10718




いつまでも美しいフルーティスト、エミリー・バイノンは、オランダのオーケストラの首席奏者をやっていても、生まれたのはイギリスのウェールズ、そんな彼女がウェールズのオーケストラをバックにイギリスの作曲家のフルート協奏曲を録音してくれました。タイトルにはそんな意味の単語が並びますが、ここに収められている4曲のうちの1曲だけは、「イギリス」でも「協奏曲」でもない、「フランス」の作曲家フランシス・プーランクが作った「ソナタ」なんですけどね。とは言っても、これは、ここでちゃんとした協奏曲を提供しているイギリスの作曲家、レノックス・バークリーがオーケストレーションを行ったバージョンなのですから、許してあげましょう。
この「オケ版プーランク」は、「イギリス」とは言っても「北アイルランド」出身のフルーティスト、ジェームズ・ゴールウェイに頼まれて、1976年にバークリーが編曲したものです。同じ年にシャルル・デュトワ指揮のロイヤル・フィルをバックに録音、次の年に同じメンバーで初演されています。この録音はもちろんLPで出たもので、CD化もされているようですがCDの現物を見たことはありません。単にピアノ伴奏をオーケストラに移し替えただけではなく、もっと自由に新しいフレーズなどを加えたにぎやかな編曲に仕上がっています。ですから、まさに「協奏曲」と言っても構わないほどの雄弁なオーケストラと、フルートが対峙することになるのですね。ゴールウェイの演奏では、そんな丁丁発止のパフォーマンスがまず楽しめたものでしたが、今回のバイノンは律儀にソナタ版の表現を踏襲していて、ちょっと面白さには欠けてしまいます。いや、この場合はソリストよりもオーケストラの方に問題がありそう、何とも重苦しい演奏で、ゴールウェイの時のようなソリストに自由に遊んでもらえるような余裕が全くないのですからね。「ソナタ」として聴く分には、バイノンのフルートは陰影に富んでいてとても美しいのですがね。
そのバークリー自身のフルート協奏曲も、何とも鈍重なオーケストラのために正直この曲の魅力が全く感じられないような演奏になっていました。こんなはずはないと、ゴールウェイのLP(これは、CD化はされていないようですね)を引っ張り出して聴いてみると、オケもソリストもノリがぜ~んぜん違います。こうなると、もう全く別の曲を聴いているみたいでしたよ。指揮者はトヴェイっていうんですか。いくらアメリカで学んだといっても(それは「渡米」)これではちょっと。
ウィリアム・オルウィンという、バークリーと同世代のフルーティスト/作曲家のフルート協奏曲は、もともとはソロ・フルートと8つの管楽器(2Ob, 2Cl, 2Fg, 2Hr)という編成だったものを、自身もフルート協奏曲を作っている(バイノンが録音していましたね)ジョン・マッケイブがオーケストラ用に編曲したものです。変拍子によるリズムのおもしろさや、しっとりとしたシーンなど、そこそこ変化には富んでいるものの、何か生真面目さが邪魔をしてあまり魅力は感じられない作品でした。
一番楽しめたのは、この中で唯一ご存命(いや、まだ50代)のジョナサン・ダヴの新作、これが初録音となる「The Magic Flute Dances」です。タイトル通り、モーツァルトの「魔笛」の中の曲を素材にしてコラージュのように構成された、とても楽しい曲です。もちろん、ただのメドレーのようなありきたりのものではなく、かなり手の込んだ「加工」が施されていますから、常に「確かに聴いたことのあるフレーズなのに、なんだったのか思い出せない」という感じが付きまとうちょっと意地悪な仕掛けが満載です。そんな残尿感を解消するためなのか、タミーノの「絵姿」アリアの大げさな登場には、思わず大爆笑。
そうそう、ブックレットには、バイノンの愛機、「Altus」の広告が掲載されていましたね。

CD Artwork © Chandos Records Ltd.
by jurassic_oyaji | 2012-04-21 18:58 | フルート | Comments(0)