David Oistrakh(Vn)
Mstislav Rostropovich(Vc)
Sviatoslav Richter(Pf)
Herbert von Karajan/
Berliner Philharmoniker
EMI/9 55978 2(hybrid SACD)
HI-Q/HIQLP006(LP)
1969年といえば、「ソ連」と「アメリカ」という東西2大国同士が冷戦状態にあって、世界中が緊張を強いられていた時代でした。そんな時に、「ソ連」の大物アーティスト3人が、「西側」のオーケストラと共演してレコードを作ったりしたのですから、これは大事件でした。そもそも、原盤からして
EMIと、ソ連の
MELODIYAの共有物という扱いでしたから、国によってリリースされたレーベルが異なっていましたからね。日本の場合は、
MELODIYAと提携していた「新世界」レーベルから
LPがリリースされました(販売は日本ビクター)。なんでカラヤンがソ連のレーベルから?と不思議に思った記憶があります。ただ、実は同じ年の5月にカラヤンとベルリン・フィルはソ連に演奏旅行に訪れていて、その時のモスクワでのライブを
MELODIYAが録音していたのですね(ショスタコーヴィチの「交響曲第
10番」を、作曲者の前で演奏していたのだとか)。そんなつながりもあって、9月にベルリンのイエス・キリスト教会という、当時彼らが
DGのための録音を行っていた会場でのセッションがもたれることになったのでしょう。録音は
EMIのスタッフによって行われました。
CDの時代になってからは、
EMIだけからのリリースとなります。今まで何度となく再発を繰り返す間にはマスタリングが変わったりして、それなりの音質の向上も図られていたはずです。それが、ついこの間、「日本国内だけ」ということで、なんとわざわざ
EMIのマスターテープにまでさかのぼってハイレゾのデジタルデータに変換されたものが
SACDとして発売されました。全部で
100タイトルにもなろうという膨大なシリーズの中の一つですが、それらのアイテムはまさに今まで
CDで聴いてきた音はなんだったのかと嘆かざるを得ないほどの、「いい音」だったのです。この「トリプル・コンチェルト」などはオリジナルの
LP通り、入っているのはこれ1曲、たったの
36分だけなのに価格は
3000円というベラボーな設定だったのですが、これだけいい音なら、と納得させられるものでした(
ブラボー!)。
ところが、ごく最近、「日本国内」だけだと思っていた
SACDが、輸入盤で出てきたではありませんか。こちらはアイテムは多くはありませんが、日本盤と同じものが、「トリプル・コンチェルト」の場合は、もう1枚セルとオイストラフたちの競演による同じ頃のブラームスのヴァイオリン協奏曲と、ドッペル・コンチェルトが一緒になって
1500円以下という実質
1/4の安さ、それでいて、豪華ブックレットには、すべてのオリジナル
LPのジャケット、ブックレット、さらにはレーベルの写真までカラーで掲載、もっと凄いのは、おおもとのマスターテープの現物の写真まで見られますよ。手書きの「○年にリマスター」などというメモまで写っているのですから、マニアにはたまらないものでしょう。もう少し待っていれば、他のアイテムもこの信じられないほどお買い得なシリーズで手に入れることが出来るようになるのでしょうか。もちろん、「音」は全く遜色ありません。いや、もしかしたら輸入盤の方がいいかもしれませんよ。ひどい話ですね。
つまり、その輸入盤の
SACDを、前にも取り上げた
Hi-Qレーベルの
LPと比較してみたら、部分的には「勝って」いるところもあったので、これはちょっとすごいのではないか、と思ってしまったのですね。いや、もちろん、B面の最初に切ってある第2楽章の頭などは、さすがに
LPの持つしなやかさが弦楽器の質感を存分に再現していて、一日の長があるものの(
LPでは、転写によるプリエコーまで聴こえます)、もう少し内周になってくると、第3楽章のオイストラフのヴァイオリンの生々しさなどは、
SACDの方がよりくっきりと伝わってくるのですからね。
SACDに対する、この
EMI(本国)の姿勢が、親会社のユニバーサルの意向で変わってしまわなければいいのですが。
CD & LP Artwork © EMI Records Ltd.