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PLEYEL/Symphonies and Flute Concerto
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Patrick Gallois(Fl, Cond)
Sinfonia Finlandia Jyväskylä
NAXOS/8.572550




「プレイエル」と言えば、ほとんど反射的に「ピアノ」という答えが返ってくるぐらい、その名前は歴史的なフランスのピアノ・メーカーとしてあまりにも有名です。あのショパンが愛用したピアノを作り、最近のことでは忘れられていた楽器、チェンバロを現代によみがえらせるために、ワンダ・ランドフスカの要請でピアノのフレームに弦を張ったいわゆる「モダン・チェンバロ」という、それまでの歴史の中では存在していなかった「新しい」楽器を開発したメーカーとして、間違いなくこれからも末永く語り伝えられていくはずの名前です。
ところが、その会社を設立したイニャス・プレイエルという人が、もともとは作曲家だったことを知っている人は、それほど多くはありません。このプレイエルさんはピアノ・メーカーを作る前には音楽出版社も経営していたという辣腕のビジネスマンでありながら、あのヨーゼフ・ハイドンに師事して多くの作品を残した、当時は「大作曲家」だったのですね。そういえば、ブラームスの「ハイドンの主題による変奏曲」のもとになったディヴェルティメント(Hob.II:46)も、実はハイドンの作品ではなく、このプレイエルさんが作ったものなのだそうですね。
オーストリアで生まれたプレイエルは、最初は「イグナツ・プライエル」と名乗っていましたが、ハイドンのもとでの修業が終わり、活動の場所をフランスに移すとともに、名前もフランス風に「イニャス・プレイエル」と発音するようになりました。このCDで演奏されている3曲のうち、2曲の交響曲は1780年代、彼がまだ「専業」の作曲家だった時代の作品ですが、フルート協奏曲は1797年と、すでに「メゾン・プレイエル」という名前の音楽出版社を作って、ビジネスマンとして精力的に働いていた時期のものなのだそうです。つまり、このころはまさに「2足のわらじ」を履いていたのですね。
まず、変ロ長調の交響曲を聴いてみましょうか。古典的な4楽章形式ですが、最初のアレグロの楽章が、よくある快活な感じではなく、3拍子のミディアム・テンポなのが、いかにもフランス風でしゃれています。ただ、それに続くアンダンティーノの楽章も、メヌエットの楽章も似通ったテンポなので、ちょっとメリハリがきかなく退屈に感じられてしまいます。おそらくそう感じてしまうのは、何事にも刺激を求めたい現代人としての感覚なのでしょう。曲が作られた当時のフランスでは、こんなユルさが多くのファンを呼んでいたに違いありません。
ですから、おそらく、そのあたりが、彼が「現代」では作曲家としてはほとんど忘れられている大きな原因なのでしょうね。ここには、時代を超えて訴えかけてくるようなものは、何も感じることはできません。あるいは、ガロワの指揮するシンフォニア・ユヴァスキュラがもっとこの曲の「楽しさ」を伝えるような「何か」を付け加えてくれればいいのでしょうが、彼らはひたすら愚直な作品を愚直に演奏するだけです。
もう一つのト長調の交響曲では、いくらかおもしろさが感じられるでしょうか。アンダンテ楽章が短調の変奏曲というのが、ちょっとした新鮮さを呼んでいます。ただ、これももう少し演奏でメリハリをつけてもらわないと、退屈に感じてしまうだけでしょう。
そして、ガロワの「吹き振り」で、ハ長調のフルート協奏曲です。ここでは、あのジャン・ピエール・ランパルが校訂した楽譜を使っているのだそうです。辛口じゃありませんよ(それは「ジンジャーエール」)。確かに、この協奏曲は、まさにランパル好みの名人芸満載、息もつかせず(実際、ほとんどブレスをとっていません)細かい音符を紡ぎだすのはとても爽快です。ランパルは、こんな時に、わざと早めに演奏して「どうだ、すごいだろう」と言っているように思えるような演奏をしたものですが、そんなところまでガロワが受け継いでいるのが、ちょっとかわいいですね。

CD Artwork © Naxos Rights International Ltd.
by jurassic_oyaji | 2012-05-13 22:19 | フルート | Comments(0)