おやぢの部屋2
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HAWES/Lazarus Requiem
HAWES/Lazarus Requiem_c0039487_20255481.jpg
Thomas Walker(Ten)
Elin Manahan Thomas(Sop), Rachael Lloid(MS)
Patric Hawes/
Exeter Philharmonic & Cathedral Chorus
Royal Scottish National Orchestra
SIGNUM/SIGCD282




2008年に初演された非常に新しい「レクイエム」の、初録音です。作曲したのはパトリック・ホーズという1958年生まれのイギリスの作曲家、すでにこのレーベルからも何枚かのアルバムを出していて、合唱関係ではかなり名前が知られている人です。ここでは、これまでの作品でも協力してきた兄のアンドルー・ホーズ(詩人にして聖職者)のアイディアに従って、通常の「レクイエム」の間に、新約聖書のヨハネによる福音書の中にある「ラザロ」のエピソードを挟み込むことにしました。マグダラのマリアの弟であるラザロは、病気にかかって亡くなってしまいますが、4日後にやってきたイエスが死体を収めた洞穴をふさいでいた石をどけさせると、そこからは蘇ったラザロが現れた、というお話ですね。
これを、福音書の記述にほぼ忠実に、イエス、マリア、そしてマリアの姉のマルタの言葉をそれぞれソリストが歌い、地の文を合唱が歌うという、「受難曲」ではおなじみの手法で進行させました。つまり、1曲で「レクイエム」と「受難曲」を同時に味わえる、という、なんともお得な曲が出来上がったことになります。
構造が非常に分かりやすいうえに、音楽もとことん伝統的な書法に徹していて、安心して聴いていられます。まずは序曲代わりに「ラザロへのエレジー」というインスト曲が演奏されますが、フルートの長大なソロで始まるそのテーマは、とても懐かしい情感をたたえた美しいものでした。「スノーマン」でおなじみのやはりイギリスの作曲家、ハワード・ブレイクの持っているテイストとよく似た和声感も、とても上品で心地よいものです。
そして、まず「ラザロ」が始まります。全部で6つの「タブロー」(ハセガワさんじゃないですよ・・・それは「サブロー」)が、文字通り「絵」のように「レクイエム」の間を飾ることになるのですが、それぞれ、最初にその「額縁」に相当するイントロが奏されます。まるで、グレゴリア聖歌のような単旋律がハープに乗って聴こえてくるのですが、それを担当する楽器がバリトン・サックスなのが、軽いショックを与えてくれます。前の曲でのフルートの上品さに比べると、この楽器の無神経さには殆ど耐えられないものがあります。それに続く合唱のテンション・コードや、弱音器を付けた弦楽器の思慮深さとは対極にあるこの乱暴な楽器をここで用いた作曲家のセンスが、理解できません。
もう一つ理解できないのは、そのあとの曲、いよいよ「本編」である「レクイエム」の登場だと思って身構えていると、そこにはあのデュリュフレの曲が流れてきたではありませんか。いや、正確には、この名作で使われているグレゴリオ聖歌を、ホーズも同じようにテーマとして使っているだけなのですが、なぜかそれが「パクリ」に聴こえてしまうのですね。ただ、ほかの楽章ではオリジナルのテーマしか使われてはいません。
「ラザロ」では、テノールによるイエスの言葉に、思い切り高音を使ったハイテンションのメロディが与えられていますし、オーケストラにもホルンが加わって盛り上げられています。それを歌うウォーカーの声はそれに見事にハマったもので、見事なインパクトを与えてくれます。最後の「タブロー」でのクライマックスなどは、まさに圧倒されてしまいます。
「レクイエム」の方も、かなりベタなオーケストレーションで盛り上がります。ほとんど合唱だけで歌われていますが、「Benedictus」ではソプラノ・ソロが加わっています。おそらく、E.M.トーマスを想定して作ったのでしょうが、高音での音程の怪しさは致命的、彼女は、もはやそのような期待に応えられる資質をなくしてしまったのでしょうか。合唱の、やはり怪しげな音程とも相まって、最初の「エレジー」にみられた上品さが最後まで続かなかったのが、残念です。

CD Artwork © Signum Records
by jurassic_oyaji | 2012-05-25 20:27 | 合唱 | Comments(0)