Marin Alsop/
String Fever
NAXOS/8.572834
マリン・オールソップと言えば、このレーベルでもおなじみ、世界中のオーケストラを相手に活躍している女性指揮者です。いや、別に「女性」などと特別扱いする必要など全くないほどに、他の音楽家同様、今では指揮者が女性であることに何の違和感もない時代になっています。
彼女は、
1989年にクーセヴィツキー賞を取って指揮者としてのキャリアをスタートさせる前は、ヴァイオリニストだったということは知っていました。しかし、スティーヴン・ソンドハイムのミュージカル
「スウィニー・トッド」のオリジナル・キャスト盤を入手した時に、劇場のオーケストラのメンバーの中に名前を見つけた時には、驚きました。彼女は、ブロードウェイの劇場のピットで演奏するという、まさに「ショービズ」の世界にどっぷりつかっていたことがあったのですね。ここではトップではなく、トゥッティのヴァイオリン奏者のようでした。
それは、
1979年に録音されたものですが、
1981年に、彼女がコンサートマスター(リーダー)となって結成したのが、この「ストリング・フィーヴァー」というユニットです。小編成の弦楽合奏団ですが、コントラバスは完全にリズム・セクション、そしてドラムスも加わっています。管楽器を全く使わない編成で「ジャズ」を演奏しようというコンセプトだったのでしょうね。それは、そんな彼女のキャリアからは十分に納得のいく活動です。
この
CDには、
1983年と、
1997年に録音されたものが一緒になっています。最初からこういう形だったのか、あるいはコンピレーションなのかは、ここでは全くわかりませんが、
1983年の時のプロデューサーが、ウディ・ハーマン楽団のサックス奏者だったゲイリー・アンダーソンなのが、目を引きます。彼はその時だけでなく、
1997年の録音でも多くの編曲を担当していますから、このユニットのサウンドに関しては大きな貢献を果たした地位にいたのでしょう。その編曲のプランは、基本的には管楽器によるビッグ・バンドのサウンドを、弦楽器によって再現する、というものだったような気がします。
こういう「置き換え」を聴いていると、別の分野でも同じようなことをやっていることが思い出されます。それは、「吹奏楽」の世界。そこでは、逆に弦楽器のサウンドを管楽器によって再現しようと頑張っていたのですね。シンフォニー・オーケストラのヴァイオリンのパートをクラリネットに置き換えようというのが、彼らの基本的なプラン、それに真剣に取り組んでいる方には申し訳ないのですが、なぜ、わざわざそんなことをするのか、という素朴な疑問が、オリジナルを聴きなれている時には常に湧いてきてしまいます。
同様の違和感が、この、弦楽器だけによる「ビッグ・バンド」でも湧き起ってきます。確かにそれらしい音にはなっているのですが、なぜこれを弦楽器でやらなければいけないのか、という必然性がまるで感じられないのですね。しかも、有名な「
In the Mood」などは、サックス・セクションはそれなりのものになっても、金管セクションのインパクトが出ないことには、なんとも「まがい物」にしか聴こえてきません。厳然と存在している「ジャンルの壁」を力ずくで壊そうとすると、こんな悲惨なことになってしまうのかもしれませんね。
ただ、「
Liberated Brother」のような、わりと新しめでラテン色の濃いものは、リズム・セクションが「本物」ですからきちんとしたグルーヴが感じられて楽しめます。ブルーベックの「
Blue Rondo a la Turk」なども、オリジナルは小さなコンボですし、ここでの変拍子はそもそも「ジャズ」とは一線を画すものでしたから、曲の生命が損なわれることはありません。まあ、だからと言ってわざわざこんなものを買って聴くことに、意味を見出すことはできませんが。
それより意味不明なのが、国内盤の「帯」にある「カニも食べたい」というコピーです。これはいったいなんなの
かに。
CD Artwork © Naxos Rights International Ltd.