Lynn Morrow/
Pacific Mozart Ensemble
SONO LUMINUS/DSL-92160(CD, BD)
「
SONO LUMINUS」というのは初めて聞くレーベル名でした。実は、これはかつてあった「
DORIAN」というアメリカのレーベルが
2005年に倒産したものを、「
SONO LUMINUS」という会社が買い取って
2007年に新たに発足したレーベルなのです。確かにマークは
DORIANそのものですね。ただ、最初のころは「
DORIAN SONO LUMINUS」と言っていたものが、最近ではこのようにマークが微妙に変わって「
DORIAN」がなくなっていますね。かわいそうに。
そのSONO LUMINUSという会社は、録音を専門にしていたところなので、最近の新譜では録音面でかなりのインパクトのある製品を出してきています。実はジャケットのインレイには「
Blu-ray Audio + CD」という文字と、
BDと
CDのロゴが印刷されていることが、拡大すると分かります。
例えば、「
2L」や「
NAXOS」のように、ブルーレイ・オーディオはしっかり縦長の
BDのケースに収まっているのではなく、これはただの
CDケースですので、中に同じコンテンツの
CDと
BDが2枚入っていることには気づかないかもしれません。ネットショップの案内にも、ただ「
CD」と書いてあるだけですし。
そんな、まるで「趣味でやっているのだから、別に気づいてもらわなくてもかまわないさ」とでも言いたげにさりげなく入っているブルーレイ・オーディオですが、そのスペックはしっかり極限を追求したものでした。サラウンドが
7.1と
5.1の2種類、それに2チャンネルステレオが加わります。音声スペックは
24bit/192kHzという、
BDの規格の最大値を確保しています。
7.1だけはさすがに
24/96になっていますが、そうしないと1枚の
BDには収まらなくなってしまうのでしょう。ただの「趣味」にしては、気合の入り過ぎ。
これはもちろん、
「指環」のSACDのようなアップコンバートではなく、最初から
24/192で録音されたものですから、同梱の
CDと比較するのもかわいそうなぐらい、ものすごい音を聴くことが出来ます。合唱の肌触りと質感が、まさに別物、それこそ、ちょっと突っついたら果汁があふれ出てくるほどの豊穣さがみなぎっているのですからね。
そう、タイトルからはわかりませんが、これはデイヴ・ブルーベックの合唱曲を集めたアルバムです。いわゆる「組曲」のような大仰なものではなく、ほんの数分程度のかわいらしいピースが
20曲程度集められています。その作風も、まるでロマン派の合唱曲のようなオーソドックスなものから、彼の本来のフィールドであるジャズっぽいものまで、多岐にわたっています。どんな曲の中でも、しっとりとした歌心が感じられ、聴く者を幸せにしてくれます。
と、最初の数曲を聴いているうちは、その包み込まれるようなみずみずしい録音にも助けられてうっとりとしていられたのですが、しばらくしてくるとなんだかこの合唱団の演奏はとても覇気に欠けるような気がしてきました。ただ流れに乗って歌っているだけで、そこから何かを表現しようという意思が全く感じられないのですね。本来は楽しいはずのブギ・ウギをベースにした曲でも、聴いていてつらくなるようなノリの悪さですし。
曲の中には、最初はインスト物として作られたものを合唱曲に編曲したものもたくさん含まれています。そんな中で、そもそもは弦楽オーケストラのために作られた「
Regret」という複雑な対位法を駆使したかなり「器楽的」なイディオムが満載の難曲では、もろに合唱団のスキルでは手に負えないことが露呈されて、とてもひどいことになっていました。
この合唱団は、以前
バーンスタインの「ミサ」にも参加していました。でも、あそこでの「合唱」はそれほど厳格さを要求されるパートではなかったはず、ライナーによると、彼らのレパートリーは「ブラームスからビーチ・ボーイズまで」なのだそうですが、ここではもろビーチ・ボーイズ寄りの軸足になっているようです。それではブルーベックは歌えません。
CD Artwork © SonoLuminus LLC