おやぢの部屋2
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BERLIOZ/Symphonie Fantastique
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Leonard Slatkin/
Orchestre National de Lyon
NAXOS/8.572886




スラトキンもリヨン国立管弦楽団も、ともにNAXOSに多くの録音がありますが、このたびスラトキンが準・メルクルの後任者としてこのオーケストラの音楽監督に就任したため、晴れて「カップル」でのアルバムを作ることが出来るようになりました。ただし、スラトキンはデトロイト交響楽団の音楽監督というポストにもありますから、こちらの方は「側室」といった感じでしょうか。
そんな「新婚さん」が初めてNAXOSに録音したのはベルリオーズの「幻想」でした。日本サイドで付けた「帯コピー」によると、「精緻なオーケストレーションがはっきりくっきり聴き取れる完全無欠な演奏」というのですから、これは楽しみです。
「幻想」の前に入っていたのが、「海賊」序曲でした。いかにもベルリオーズらしいハイテンションのイントロから、聴き手の心は弾みます。こんなものを聴いてしまうと、いったいベルリオーズのリズム感覚はどうなっていたのだと思ってしまいます。これはストラヴィンスキーの「春の祭典」などのはるかに先を行く複雑なリズムなのではないでしょうか。こういうものは、きっとスラトキンは大好きなのでしょう。まさにイケイケのテンションで、胸のすくような演奏を聴かせてくれています。
そんな熱気でほてった体を、メイン・プロの「幻想」ではひとまずクール・ダウンして欲しいと思っていたのですが、なんだか序曲の雰囲気がそのまま第1楽章の「夢」に持ち込まれていたのには、ちょっとひるんでしまいました。この音楽は、もう少し腰を据えてじっくり怪しげな雰囲気を醸し出して欲しいのに、スラトキンはやたらとせわしなく煽ってばかり、なにか違います。というか、こういうのがスラトキンのやり方なのでしょうね。なにか、表面的な効果ばかりをねらっていて、そこからはしっとりとした情感のようなものがあまり感じられないのですよ。第4楽章の「断頭台への行進」でも、メインのマーチに入る前にこれ見よがしのアッチェレランドをかけて、なんともノーテンキに大騒ぎしているだけ、ここでもぜひ欲しいと思っている「不気味さ」などは全く見当たりません。
そんな、軽くて薄っぺらな表現を助長しているのが、帯解説で強調されていた「はっきりくっきり」という録音です。確かに、この録音ではそれぞれの楽器がとても明瞭に聴こえるようにはなっています。第2楽章の「舞踏会」での2台のハープは、きっちりと右はじと左はじに定位していて、それこそ「ステレオ感」満載、昔、バーンスタインのCOLUMBIA盤でこれと同じ感じのものを聴いて感激したことを思い出しました。でも、なにをいまさら、という気がしてしまいます。
そんなこけおどしも、華やかなサウンドとして楽しめる範囲でやってくれているうちはいいのですが、自然なバランスが崩されるところまで行ってしまうと、ちょっと問題です。その楽章の途中では木管楽器が「idée fixe」を吹き始めるところで、急に音が大きくなっています。これは明らかにソロマイクのフェーダーを操作したもので、陰で弦楽器が演奏しているワルツのテーマが全然聴こえなくなるほどの巨大な音像が眼前に広がります。次の楽章「野の風景」では、コール・アングレに応えるオーボエは「遠くから」聴こえてこなければいけないのに、まるでステージ上にいるかのように目立った音になっています。こういう勘違いの録音からは、決して「精緻なオーケストレーション」などは味わうことはできません。
極めつけは、最後のトラックに入っている「コルネット・オブリガート付きの第2楽章」です。ここでは、オーケストレーションに華を添えるべきコルネットが、まるでソロ楽器のようにでしゃばった音で聴こえてきますから、はっきり言って邪魔。このコルネット・バージョンが好きだった人も、ここまでやられてはこるねっとのけぞってしまうのではないでしょうか。

CD Artwork © Naxos Rights International Ltd.
by jurassic_oyaji | 2012-11-01 19:57 | オーケストラ | Comments(0)