Adam Riis(Ten)
Stefan Östersjö(Guit)
Fredrik Malmberg/
Danish National Vocal Ensemble
DACAPO/6.220622(hybrid SACD)デンマークの「
DACAPO」レーベルは、非常に良い音で録音されているという印象がありました。もちろん、
SACDも積極的にリリースしています。ここで多くの録音を手掛けているのが、プレベン・イワンとミッケル・ニマンドという二人のエンジニアのチームが作った、「
Timbre Music」というスタジオです。彼らは、かつて「
B & K」と呼ばれていた
DPA(Danish Pro Audio)のマイクをメインに使って、とても透明性のある録音を実現させています。さらに、録音フォーマットも「
DXD(Digital eXtreme Definition)」という、今まではノルウェーの「
2L」というレーベルでしか見たことのない超ハイレゾ
PCM(
24bit/352.8kHz)の規格を使っています。サンプリング周波数は、
CDのちょうど8倍ですね。
「
DXD」というのは、「ピラミックス」という
DAWでおなじみのマージング・テクノロジーズが開発した
PCMのフォーマットです。同じデジタル録音でも、
SACDでは
CDのような
PCM(Pulse Code Modulation)ではなく
DSD(Direct Stream Digital)というフォーマットが使われています。ですから、
SACDを作るためには最初から
DSDで録音するのが一番のような気がしますが、実際の
SACDで、
DSDによって録音されたものはあまり見かけません。ほとんどは、ハイレゾの
PCMで録音したものをマスタリングの際に
DSDに変換したものなのですね。というのも、
DSDでは、イコライジングやダイナミックス、リバーブといった編集作業をリアルタイムに行うことが出来ないのだそうです。ですから、そのような作業が必要となるものは、最初は
PCMで録音するしかないのですよ。しかし、
PCMの場合、マージングの資料によると、いわゆる「ハイレゾ」と呼ばれているフォーマットの中でも最高の
192kHzでも、アナログ録音を忠実に再現できる
DSDに比べると、まだ特性は不足していたというのです。
それが、さらにサンプリング周波数を高めたこの
DXDを使うことにより、ほぼ
DSDと同等の特性が確保できるのですね。つまり、
DXDで録音されたものは、
DSDの弱点であった編集のしにくさが克服された上に、
DSDと同等の「アナログに迫る」音が得られるということになるのです。
というのが「ウリ」の、今回のアルバムは、ペア・ノアゴーという
1932年に生まれたデンマークの作曲家の合唱曲を集めたものです。ノアゴーは、いにしえのセリーなどに基づいた独自の作曲語法を持っている人ですが、多くの「現代作曲家」のようにロマンティックな作風に転向することなく、自らの道を歩いているような気がします。別に、体系的に彼の作品を聴いたわけではないのですが、このアルバムに収録されている3つの曲の中で、最も新しい「白昼夢(代理店による邦題)」が、最もとんがっているようなイメージを受けたものですから。
タイトルの曲の「リブラ」(
1973年)は、全部で
10曲から成る大曲です。編成もテノールのソロ、ギター・ソロ、2つの合唱団、そして2台のビブラフォンというかなり大きなものです。ギターだけで演奏される曲も2曲あります。そのギターの音は、この録音のおかげでとてもリアル、さらに、大活躍しているテノールも、突き刺すような張りのある声がもろに立体的に聴こえてきます。後半に入ってくるビブラフォンは、逆にとてもしっとりとした音色で、全体の音場に見事になじんで、風景化しています。そこに、「コラール・クワイア」と「アカペラ・クワイア」という2組の合唱団が、まるで聴き手を包み込むように別々の距離感で聴こえてきます。全員のメンバーで演奏される最後から2番目の曲が、とてもゆったりとした時間の流れで、和みます。
さっきの「白昼夢」(
1989年/
2002年改訂)と、もう1曲「回路(これも代理店の邦題ですが、恐らく誤訳でしょう。この季節は必要ですが・・・それは
懐炉?)」(
1977年)では、無伴奏合唱のサウンドがとても生々しく伝わってきます。そんな、ある意味では恐ろしい録音に耐えているこの合唱団の水準は、ものすごいものがあります。個人的には、テナーの音色にちょっと違和感がありますが。
SACD Artwork © Dacapo Records