Alan Gilbert/
New York Philharmonic
DACAPO/6.220623(hybrid SACD)
あのウィーン・フィルと同じ年に創設され、アメリカで最古の歴史を誇るオーケストラがニューヨーク・フィルです。しかし、最近はひところのような華やかさに欠けるのでは、と感じるのはなぜでしょう。そもそも、現在の音楽監督が、日系のアメリカ人、アラン・タケシ・ギルバートだと認識している人が、どれほどいるのでしょう。ちょっと古い話ですが、
2009年に日本有数の音楽出版社である音楽之友社から刊行された「世界のオーケストラ名鑑」というムックでは、当時はロリン・マゼールが音楽監督だったこのオーケストラに関する記述の中で、「次期音楽監督は、ケント・ギルバート」と紹介されているのですから、「アラン・ギルバート」という名前を知っている人がほとんど
あらん(おらん)という日本の音楽ジャーナリズムの実態が知れようというものです。なんせ、彼が世界的な注目を集めたのが、「客席の携帯電話の音で、マーラーの9番の演奏を止めた男」としてですから、あまりにもさびしすぎます。
さらに、最近のこのオーケストラは、知る限りでは
CDなどをほとんど出していません。これはどこも同じこと、メジャー・レーベルにとっては、いまやオーケストラの録音などはお荷物以外の何物でもないのです。
それでも、サンフランシスコ交響楽団などは、自分たちのレーベルを作って、華々しく頭角を現してきましたが、「古参」のニューヨーク・フィルは、どうもそのようなことにはあまり積極的ではないような気がします。ライブ映像の配信などはある程度行っているようですが、地道に
CDを作ることは、ほとんどやっていないのですね。
そんな状況の中で、突然リリースされたのが、このニールセンです。しかも、レーベルはマイナー中のマイナー、
DACAPOですから、驚いてしまいます。実は、このデンマークを代表する作曲家は、
2015年に生誕
150周年を迎えるそうなのです。そこで、それに向けて彼の交響曲や協奏曲をニューヨーク・フィルによってまとめて録音するという「ニールセン・プロジェクト」が企画され、その
CD(いや、
SACD)を、このデンマークのレーベルが制作することになりました。その第1弾が、この交響曲第2番と第3番がカップリングされたアルバムです。
前回書いたように、このレーベルの音へのこだわりはハンパではありません。今回も、やはり
Timbre Musicが録音を担当していて、ものすごい音を聴かせてくれています。ただ、「2番」は
2011年に録音されているのですが、その頃はまだ「
DXD」で録音する体制は出来ていなかったようで、録音時には
24bit/96kHzのフォーマットを使い、ポストプロダクションだけ
DXDというやり方でした。もちろん、
2012年になってから録音された「3番」では、最初から最後まで
DXDが用いられています。
前半に収録されているのは、「3番」の方です。「広がりの交響曲」という副題が有名ですが、なぜか代理店は「おおらかな交響曲」で通しています。どうでもいいことですが。これは、まさに目の覚めるような録音、煌めくばかりのオーケストラ・サウンドが眼前に「広がり」ます。いままで
SACDで聴いた時にたまに感じた「スカスカ感」が全くない、中身の詰まったまさにアナログ感満載の音です。第2楽章で、舞台裏から唐突に聴こえてくるソプラノとバリトンの歌声も、充分な「広がり」を見せています。
ところが、後半に入っている「2番」(こちらは「4つの気質」が標準タイトル)になると、音がワンランクしょぼくなっています。弦楽器の高音の伸びがちょっと不足していて、その結果音色に柔らかさがなくなっているのですね。もちろん、
こちらでもあったように、録音時期が異なれば、それだけで音は変わってしまいますからなんとも言えませんが、これは録音フォーマットの違いが如実に現れた結果だと思いたくなってしまいます。
SACDとは、そんな違いまでも聴き分けることのできるメディアなんですね。
SACD Artwork © Dacapo Records