John Barbirolli/
The Hallé Orchestra
EMI/TOGE-15066(single layer SACD)
日本の
EMIが本格的に
SACDへの対応を始めたのは、
2011年の1月新譜から、フルトヴェングラーのモノラル音源をまとめてハイブリッド
SACD化したあたりからでしょうか。これは、あくまで「国内盤だけのため」に
EMIのマスタリング・エンジニアにリマスタリングを依頼して、
EMIが保存しているマスターテープから直接
24bit/96kHzでトランスファーを行ったデジタル・マスターから
DSDマスターが作られたものでした。
さらに同じ方式で、
2011年
12月から
2012年3月までの間にステレオ時代に入ったころの「名盤」を
100アイテム(!)もリリースします。もちろん、これらは国内盤しかありませんでしたから、一律
3000円という、輸入盤よりはるかに高額な「定価」で購入しなければいけませんでしたが、その音は確実に
CDとは比較にならないほど素晴らしいものでした。
ところが、
2012年4月に、本家の
EMIから、同じマスターを使った2枚組のハイブリッド
SACDがリリースされます。たった
10アイテムしか出ませんでしたが、国内盤の倍のコンテンツなのに、価格は値引きを受ければ
1500円以下というリーズナブルなもの、もちろん、音は国内盤と全く変わりませんでした。
さらに、
2012年の9月には、日本の
EMIはなんと「シングルレイヤー」の
SACDを出し始めました。これは現在もどんどん新譜が出ていますから、最終的にはやはり
100アイテムぐらいにはなるのでしょう。
このシングルレイヤーのシリーズのコンセプトは「オリジナル尊重」なのでしょうか、例えば、プレヴィンの「トゥーランガリラ」は、2チャンネルステレオの
SACDでは楽々1枚に収まってしまうものを、
LPでは2枚組だったためにわざわざ2枚組にしていますし、マルティノンのサン・サーンス全集は
CDでさえ2枚に収まっているのに、これも
LPにならって意味もなく3枚組にしてあります。いや、しっかり意味はあります。枚数が増える分、価格も上げられるのですからね。このサン・サーンスなどは、
CDでは
1000円ほどで買えるものが
6960円、ベラボーな価格設定ではありませんか。
ですから、いくら音が良くても、このシングルレイヤー
SACDの国内盤は全く購入する気にはならなかったのですが、このバルビローリ指揮によるシベリウスの「交響曲第1番」だけは、参考音源としてぜひとも「いい音」で聴きたかったので買ってみました。実は、手元には
1999年にポール・ベイリーによってリマスタリングが行われた「
art」盤があったのですが、それがあまりにも人為的な音だったので、それが
SACDではどのぐらい変わっているかを確かめたかったのですよ。
現物は今までユニバーサル・ミュージックや日本コロムビアから出ていたものと全く同じ外観で、一面緑色の盤面の周囲に小さな文字でタイトルなどが印刷されています。さらに「おまけ」として、オリジナル
LPのライナーの写真のコピーが入っています。それはとても貴重なものなのでしょうが、「大人の事情」によって肝心の
HMVのニッパーマークが消されている(赤線の中)ために、資料としての価値が全くなくなっています。
もちろん、ジャケットの
EMIロゴも現行のものと差し替えられていて、「オリジナル」(下図)とは程遠いものになっています。
今回のリマスタリング・エンジニアはアンドルー・ワルター、音は期待通り素晴らしいものでした。「
art」では、最初からヒスノイズが目立ちますが、それは全体に高域を強調したイコライジングが施されているためであることが分かります。
CDの限界を補正しようとした結果、無残にも薄っぺらな音になってしまっていたのでした。そういう意味で、
SACDというものは両刃(もろは)の剣だったのかもしれません。今回の
SACDで「まともな」音を聴いてしまうと、こんないい加減なリマスタリングが日常的に行われていたような
EMIの
CDなどは、
もはや聴く気にはなれませんからね。
3980円という大枚をはたいて知ったのがそんなことだったなんて、さびしすぎます。
SACD Artwork © EMI Music Japan Inc.