Andrea Oliva(Fl)
Angela Hewitt(Pf)
HYPERION/CDA67897
ローマ聖チェチーリア国立音楽院管弦楽団の首席フルート奏者、アンドレア・オリヴァのバッハ・アルバムです。明日はバレンタイン・デー(それは「
ゴディヴァ」)。
FALAUTレーベルからプロコフィエフ、プーランク、マルタンを収録したデビューアルバムをリリースして以来、今まで何枚かの
CDを出していますが、
HYPERIONからはこれが初アルバムとなります。
1977年モデナ生まれのイタリア人フルーティストで、
2005年の第6回神戸国際フルートコンクールでイタリア人としては初めて第1位を獲得したとして、話題になりました。ちなみに、この時彼と1位を分け合ったのが小山裕幾さん、3位に入賞したのが高木綾子さんでした。
それ以前、
2000年には、すでにベルリン・フィルで首席奏者として活動しています。この時期はあのエマニュエル・パユが一時退団していましたから、エキストラとして出演していたのでしょう。そういえば、あの頃の映像ではブラウが降り番の時には見慣れないフルーティストが何人か出ていたような気がしますが、その中にオリヴァもいたのでしょうね。
その後、
2001年から
2003年まではローマ歌劇場管弦楽団の首席奏者を務めていますし、ソリストとしてもこれまでに多くのオーケストラとの共演を行っています。
オリヴァはゴールウェイのマスタークラスも受講していて、師匠からは「同世代では最高のフルーティストの一人」という賛辞(これが賛辞と言えるのかは別にして)を与えられているそうです。彼の
公式ウェブサイトでは何種類かのライブ映像を見ることが出来ますが、その中でメルカダンテのフルート協奏曲の第2楽章を演奏しているものなどでは、ゴールウェイそっくりの輝かしい音と、豊かな表現を聴くことが出来ます。なにより、フルートの構え方やブレスの仕方がそっくり、かなりの影響を受けているのでしょうね。
今回のバッハのソナタ集は、全部で6曲収録されています。一応
BWVにはフルートのためのソナタは7曲入っていますが、そのうちのト短調(
BWV1020)、変ホ長調(
BWV1031)、ハ長調(
BWV1033)の3曲は「追加
II(偽作)」というカテゴリーで扱われています。これが全部ここには入っていますが、そこに「
attribution」という注釈がついているのがちょっとユニーク。「帰属」ということでしょうが、「いくらかはバッハ自身に帰属する」といった意味なのでしょうか。あとの3曲は真作のロ短調(
BWV1030)、ホ短調(
BWV1034)、ホ長調(
BWV1035)で、
CDの収容時間目いっぱいの
78分収録です。もう1曲のイ長調(
BWV1032)は省かれています。この曲の場合は、第1楽章に欠損部分がありますから、不完全なものよりは偽作の方を選択したのでしょう。
バッハの演奏の際に問題になるのはどんな楽器を使用するかという点でしょう。ここでは、フルートもピアノも、ピリオド楽器とは全く縁のないアーティスト同士ですから、当然ムラマツ
14Kゴールドのモダンフルート、そして、ファツィオーリのグランドピアノが使われています。なんと言っても、ピアノのヒューイットはこのレーベルの稼ぎ頭ですから、彼女のフィールドで勝負するしかないわけです。それはそれで一つの見識でしょう。ところが、フルートの場合は、モダン楽器を使っていてもピリオドっぽいテイストを出すことは出来ないことはありません。オリヴァは、まさにそれに近いことを試みているのですね。この
CDからは、先ほどの動画から期待された音とは全く異なる、生気の乏しいフルートが聴こえてきました。さらに、おそらく演奏の主導権はヒューイットがとっていたのでしょう、テンポがやたらともたついています。実は動画にはロ短調のソナタ(伴奏はチェンバロ)も入っていたのですが、そちらではもっと颯爽としたテンポが聴けました。
最初から最後まで、オリヴァらしさも、そしてバッハらしさもほとんど感じることのできないアルバムでした。おそらく、ヒューイットらしさだけは満載だったのでしょう。
CD Artwork © HyperionRecords Limited