Raffaele Trevisani(Fl)
Paola Girardi(Pf)
DELOS/DE 3429
イタリアのフルーティスト、トレヴィザーニの最新アルバムです。偶然
NML(Naxos Music Library)で見つけたので、ストリーミングで聴いてみたらなんともひどい音、こんな珍しい曲なのにこれではあんまりと、きちんと
CDを買って聴こうと思いました。ところが、よくあることですが
HMVのサイトでは取り扱っていません。仕方なく
AMAZONから入手です。手元に届いてから再度
HMVを見てみたら、発売日が3月末ですって。代理店を通すとこんなことが良く起きます。というか、このサイトの場合、最近は代理店経由のものでも新譜の紹介がはなはだしく遅くなっていますから、困ったものです。何しろ、このアルバムは今年中に売らなければ何の意味もなくなってしまうものなのですからね。
というのも、これは明らかに今年生誕
200年を迎えるヴェルディがらみのアイテムだからです。ジューリオ・ブリッチャルディが作った、ヴェルディのオペラのテーマに基づくフルートとピアノによる幻想曲の数々、今まで何種類かの録音がないわけではありませんでしたが、これだけまとまっているアルバムなんて、こんな年でなければ誰も録音しようとは思わなかったでしょう。
しかし、このジャケット写真を見ると、トレヴィザーニは急に老けてしまったという印象を受けてしまいます。髪は真っ白、何より、目元が老人そのものではありませんか。今までの
CDで見られたキアヌ・リーブス似の精悍さはどこへ行ってしまったのでしょう。しかし、そんな外観とは裏腹に、フルートの音色とテクニックには更なる磨きがかかっているようでした。あるいは、このような華やかな曲こそが、彼の最も得意とするものなのでしょうか、何よりも高音の輝きが、ほとんどあのゴールウェイと同じほどの魅力を持っているのがうれしいところです。その魅力の秘密は生き生きとしたビブラート、これさえあれば、ほかのフルーティストよりもワンランク上の愉悦感にひたることが出来ます。つまり、
NMLでは、そのあたりが全く伝わってこない薄っぺらな音だったのですよ。このアルバムの最大の魅力がスッパリとなくなっているのですから、ひどいものです。
ブリッチャルディが生まれたのは
1818年ですから、ヴェルディの5歳下、まさに同時代の作曲家としてリアルタイムに彼のオペラに接していたのでしょう。そんな「ヒット作」のおこぼれにあずかろうと、「カバー・バージョン」を作るのは、今の時代と変わることはありません。ブリッチャルディは、オペラが上演されるとほどなくして、その中のテーマを巧みに取り込んだフルート・ソロのための華麗な「幻想曲」を作り、出版します。例えば、
1871年に初演された「アイーダ」などは、
1875年にはもうリコルディから出版されていますから、ちょっと腕の立つアマチュアのフルーティストなどでも、こぞってサロンなどで演奏していたことでしょう。
ここでのトレヴィザーノが、まさにそのようなことを行っています。フルート1本で、ヴェルディのオペラの勘所を華麗に聴かせてくれるのですから、楽しくない訳がありません。ところが、トレヴィザーノの演奏は完璧なのに、なぜかそんなに楽しく感じられないのですね。それは、どうやらブリッチャルディが取り上げたテーマが、すべてがなじみ深いものではないことが原因なのではないか、という気がします。例えば「アイーダ」では、今では誰でも知っている凱旋行進曲の頭の部分を使わずに、後半だけしか現れませんし、「清きアイーダ」のようなキャッチーなアリアも聴かれません。そんな感じで、今の我々だったらそのオペラではぜひ聴きたいと思っているナンバーが、あんまり使われていないのですね。そもそも、今ではほとんど接することのない初期のオペラ「エルナーニ」による「幻想的小品」なんて言われても、聴いたことのないメロディが出てこないことには「
それな~に?」になってしまいませんか。
CD Artwork © Delos Productions Inc.