Martin Gester/
Arte dei Suonatori
BIS/SACD-1979(hybrid SACD)
なんでもテレマンは、生涯に作曲したものが
4000曲を超えるのだそうです。クラシックの作曲家でこれ以上たくさん作った人はいないのだとか。そんなテレマンの作品は、現在では声楽曲はヴェルナー・メンケによる「TVWV(Telemann-Vokalwerke-Verzeichnis)」、器楽曲はマルティン・ルーンケによる「
TWV(Telemann-Werke-Verzeichnis)」という目録によって整理されています。それぞれカテゴリーごとに分類して番号を振るというやり方です。
TVWVは「1」の「教会カンタータ」から始まって、「
25」の「教育的作品」まで、
TWVはそのあとの「
30(鍵盤楽器のためのフーガ)」から「
55(管弦楽組曲)」です。
TWVの場合は、さらに調性によってひとまとめにされています。
声楽曲の場合は調性による分類はなく、単に番号だけが付けられています。そこで、
TVWV 5の「受難オラトリオと受難曲」というカテゴリーを見てみると、
1722年の「マタイ受難曲」(
5:7)から、
1767年の「マルコ受難曲」(
5:52)まで
46年間、つまり、ハンブルクに赴任してから亡くなるその年まで、毎年きちんと4つの福音書による受難曲を順番に作っていることが分かります。つまり「マタイ」、「マルコ」、「ルカ」、「ヨハネ」というツィクルスを
11回半繰り返しているのですね。あいにく、半分以上は記録しか残っていなくて、楽譜そのものは紛失してしまっているそうですが、これだけでもバッハの
10倍以上の仕事をしていることになりますね。
バッハが作った「管弦楽組曲」は4曲ぐらいですが、これもテレマンは
100曲以上作っています。その中の3曲が、ここでは紹介されています。アルバムタイトルは「絵画的な組曲」、ここでは、その3曲が絵画的なキャラクターを持っている、ということなのでしょう。ジャケットに使われている絵画も、「ハーレクイン(道化)の画家」というタイトル、このモデルは、まさか自分がこんなみだらな姿に描かれているとは夢にも思っていないのでしょうね。ユーモア、と言うか、ブラックジョークにあふれた作品です。
テレマンも、こういうことが大好きだった作曲家です。1曲目、3本のオーボエと弦+通奏低音という編成の組曲(
55:D5)には、もろ「
Harlequinade」という曲が入っていますよ。これは、なんともユーモラスな曲調ですし、この曲全体も、3本のオーボエがいとものどかな雰囲気を醸し出してくれています。
次の「民族の組曲」というサブタイトルの組曲(
55:B5)では、「トルコ」、「スイス」、「モスクワ」、「ポルトガル」など、もろ「民族」丸出しの音楽が、オプションの打楽器と共に異国情緒を味わわせてくれますよ。これはかなりポップ、というか「モスクワ」などはほとんど「パンク」っぽい危なさが漂っていますから、要注意。もっと危ないのが、最後の「びっこ」です。確かに、不規則なビートが、そんな不自由な人を的確に描写していますが・・・。
さらに、最後の組曲(
55:D22)のテーマときたら「痛風」などの病気と、その「治療法」ですって。どんな病気も、トランペットとティンパニが入った華やかな音楽で追っ払おう、みたいなコンセプトなのでしょうか。サブタイトルは「トラジ・コミック」、「悲喜劇」ですね。時代劇のマンガではありません(それは「
ワラジ・コミック」)。
そんな痛快な組曲と、あと2曲、「ポーランド風コンチェルト」というタイトルの、分類上は
TWV 43の「3つの楽器と通奏低音のための室内楽」が演奏されています。「
43:G7」などは、とても素朴なメロディを使ったかわいらしい曲です。
マルタン・ジュステルに率いられたポーランドのピリオド・バンド、「アルテ・デイ・スオナトーリ」は、目の覚めるような音色でそんなテレマンの世界を生き生きと聴かせてくれます。驚くべきことに、オリジナルの録音フォーマットは
44.1kHz/24bit、そんな「
CDよりほんの少しまし」程度のスペックでも、
SACDレイヤーでは
CDでは絶対に味わえない伸びのある音が楽しめます。
SACD Artwork © BIS Records AB