A. und G. MAHLER/Transkription für Chor a cappella(Gottwald)
Marcus Creed/
SWR Vokalensemble Stuttgart
CARUS/83.370
クリードと
SWRヴォーカルアンサンブルによる、クリトゥス・ゴットヴァルトの編曲集、最新作はグスタフ・マーラーとアルマ・マーラーの歌曲を無伴奏混声合唱に編曲したものです。ここに登場する作品の殆どのものが世界初録音で、同時に、このレーベルの母体である
CARUS出版からの楽譜の出版案内もありますから、まずは「音によるサンプル」といった販促的な意味合いがあるのは間違いのないことでしょう。これらの精緻な合唱作品が、おそらく「生」で聴かれる機会もこれからは増えてくるかもしれません。コンクールの課題曲を選ぶにはもってこいの
CDなのでは。
今回は、「歌曲」とは言っても、グスタフ・マーラーの場合はその歌曲から派生した交響曲の一部としてなじみがあるものが、何曲か取り上げられています。まず、交響曲第1番の第3楽章に使われている「さすらう若人の歌」から「
Die zwei blauen Augen2つの青い眼が」です。もちろん、交響曲ではカットされた前半もしっかり使われているのですが、その部分はちょっと平凡な編曲で、ゴットヴァルトらしさがあまり感じられません。しかし、中間部になると、待ってましたとばかりに
16声部(4声×4)のクラスターが響き渡ります。これですよ、これ。
そして、これが初録音となる交響曲第2番の第4楽章、「
Urlicht原光」です。こちらは8声部しかありませんが、シンプルにすべてのパートを合唱に置き換えて、あたかも最初から合唱曲だったかのような見事なハーモニーを聴かせてくれます。オーケストラ版では最後に入っているハープの分散和音などはあっさり削除しているのも、賢明なやり方です。
もう一つ、交響曲第5番の第4楽章の「アダージェット」でも、やはり冒頭のハープはカットされています。ゴットヴァルトによる
16声部の合唱のための編曲は、これが初録音ですが、実はこの曲は、以前
こちらのアクサントゥスの演奏で、
1958年にジェラール・ペソンという人によって編曲されたバージョンを聴いて思い切り失望したことがありました。その最大の原因はこのハープの扱い、合唱にこの部分を取り入れるといかに邪魔になるかが端的に分かってしまいます。このアルバムにはほかにもマーラーの作品が収められていて、それはゴットヴァルトの編曲だったのですが、これが録音された
2001年には、まだこの「アダ―ジェット」の編曲は出来ていなかったのでしょうか。もちろん、満を持してクリードが録音したこのゴットヴァルト版からは、オーケストラ版の持っていた緊張感がさらに昇華されて、圧倒的な静寂の世界が広がっています。
もはや完全に合唱曲としての知名度を確保した感のある「リュッケルト歌曲集」からの「
Ich bin der Welt abhanden gekommen私はこの世から忘れられ」は、このチームによる
2004年の全く同じライブ音源が
CARUSと
HÄNSSLERという2つのレーベルからのアルバムに収められていました。今回の2012年のスタジオ録音では、より腰の据わった深みが味わえるのではないでしょうか。
アルマ・マーラーの歌曲が3曲演奏されているのもうれしいところです。いずれも後期ロマン派の和声感をしっかり味わえる秀作、無伴奏合唱で歌われることによって、そのハーモニーの美しさは倍化されています。1曲目の「
Die stille Stadt静かな街」などは、グスタフ顔負けの激しい感情の起伏も味わえます。
ゴットヴァルトの編曲では、密集したテンション・コードが頻繁に顔を出します。それを録音でとらえるのは至難の業なのでしょう。とは言っても、ここで、まるで
mp3のようなチープな音しか聴こえてこないのはとても残念です。いくら
CDでも、これではひどすぎます。せめて
SACDだったら、もう少しストレスのない音が楽しめたでしょうに。音に
こだわると、どうしても不満が残ってしまいます。
CD Artwork © Carus-Verlag