Soloists
Fritz Werner/
Heinrich-Schütz-Chor Heilbronn
Südwestdeutsches Kammerorchester Pforzheim
ERATO/2564 64735-1
何事にも始まりはあるもので、最初に買った「マタイ」のレコード(=ハジレコ、やっぱり最初は不安・・・それは
恥レコ)は、フリッツ・ヴェルナー盤でした。
ERATOの日本での最初の販売先、日本コロムビアから出ていた
LPです。いかにも当時の
ERATOらしいシャリシャリとした音と、かなり誇張されたステレオ音場が強く印象に残っています。
そんな、
ERATOの初期の録音などは、
WARNERはさっぱりと忘れてしまっているのだと思っていたら、
2004年にこのヴェルナーが録音した全てのバッハの宗教曲が
10枚入りボックス3巻という、総勢
30枚の
CDになっていたのですね。それがごく最近、教会カンタータは
20枚、その他の受難曲などは
10枚入りの2つのボックスという形でリイシューされました。もちろん、価格もかなり安くなっています。
教会カンタータは「いまさら」という感じなので入手していませんが、データによると正味
58曲の教会カンタータを録音していたようですね。リヒターの
80曲超には及びませんが、当時としてはなかなか頑張っていたのでしょう。というか、そもそもヴェルナーが
1957年に
ERATOに最初に録音を行ったのがカンタータの
147番なのですね(まだモノラル)。それ1曲だけが、なぜかこちらの受難曲などのボックスに入ってました。それから
1973年の最晩年まで、こつこつと録り続けた成果が、これらのものだったのです。そして、おそらくカンタータ全曲をカタログに入れたかった
ERATOは、ヴェルナーがやり残した仕事を、ヘルムート・リリンクに託します。本当ですよ。手元にある
1975年の
ERATOのカタログには、しっかり全4巻、
19枚の
LPによる
36曲のラインナップが載っています。
これらは
1970年から
1973年にかけて録音されたものです。その後も
ERATOはこのプロジェクトを継続し(
1983年のカタログには第
12巻まで載ってます)、リリンクは
1984年にはついに世界初の教会カンタータ全曲録音という偉業を成し遂げます。しかし、その全集はなぜか
ERATOではなく
HÄNSSLERからリリースされました。
こちらのボックスに戻りましょう。ここでは、さっきの
BWV147はもちろん、翌
1958年の1月に録音されたロ短調ミサもまだモノラルです。エンジニアはダニエル・マドレーヌですが、なんともレンジの狭い録音で、合唱などはとてもヘタに聴こえてしまいます。ところが、同じ年の
10月に録音された「マタイ」では、すでにステレオになっていました。その時のエンジニアが、あのアンドレ・シャルランです。改めて聴いてみると、かつての
LPの記憶が完全が覆されてしまうような、とても素晴らしい録音だったことに驚かされます。音場設定も、エヴァンゲリストは右チャンネル、イエスは左チャンネルという分かりやすい形で「対話」を強調していますし、アリアでは第2コーラスでもしっかり中央にソリストが定位しています。その際に、ヴァイオリンを右、低音を左と逆の配置にしていることで、「第2」ということをわからせる配慮もあります。かなり大人数のオーケストラと合唱の響きはあくまでも豊穣で、体いっぱいに輝くばかりの音響が降り注ぎます。さらに、このシリーズでは
ERATOならではのフランスのアーティストが大挙して参加していますが、「マタイ」ではフルートがランパルとラリューというびっくりするようなキャスティングですよ。
49番のソプラノのアリアでは、そのランパルの朗々としたフルートを、ピエール・ピエルロとジャック・シャンボンのコール・アングレが支えるという超豪華版です。
しかし、シャルランの録音はこれだけ、
1960年に録音された「ヨハネ」は、さっきのマドレーヌの仕事でした。こちらはごくオーソドックスな音しか聴こえません。
これには
1968年に録音されたモテットも収録されていますが、その頃にはエンジニアはピーター・ヴィルモースになっていました。これはまさに
ERATOならではのクリアな音、そんな、エンジニアの個性までも味わえる、貴重なボックスです。
CD Artwork © Warner Music UK Ltd.