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BACH/Concertos for Two Harpsichords
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鈴木雅明、鈴木優人(Cem)
Bach Collegium Japan
BIS/SACD-2051(hybrid SACD)




バッハの教会カンタータの全曲録音も完成させ、乗りに乗っている鈴木雅明とバッハ・コレギウム・バッハは、最近は雅明さんの息子さんである優人(まさと)さんも交えて、さらなる次元での躍進を模索しているようですね。優人さん自身も、オルガン・チェンバロ奏者としてだけではなく、2013年には横浜シンフォニエッタの常任指揮者(音楽監督は山田和樹)に就任されるなど、指揮者としても本格的に活動を始められているようですから、着々と「2代目」への足固めに余念がないのでは。
と、こうやって漢字で書けば、このお二人はきちんと区別できますが、英語表記では「Masaaki」に「Masato」ですから、ちょっと紛らわしくなってしまいます。現に、この中の1曲での楽器の分担が、このSACDのライナーと代理店が流した情報による多くのネット上のインフォとでは食い違っています。あくまでライナーのクレジットに従えば、ここでは収録された4つの作品で2人のチェンバリストは、用意された2台のチェンバロをそれぞれ1番のパートと2番のパートで演奏するという、完全に「公平」な分担を行っているのです。
その2台のフレミッシュ・チェンバロ(のコピー)は、それぞれ個性的な音を持っています。これは、あくまで1番が左側、2番が右側から聴こえてくるという前提での話ですが、ルッカース一族の3代目、ヨハネス・クーシェの楽器は明るく繊細な音色、ルッカースの鍵盤を拡張した楽器は深みを帯びた音色を持っています(あくまで「個人的な感想」です)。
1曲目は、BWV1062のハ短調の協奏曲です。これは、有名なニ短調の2つのヴァイオリンのための協奏曲BWV1043を2つのチェンバロのための協奏曲に編曲したものです。聴きなれた単旋律のヴァイオリンのバージョンに比べると、同じ短調でもなんだかヒラヒラとした華やかさが加わっているような気がしませんか?例えばゆっくりとした第2楽章で、2人のソリストの掛け合いを聴いていると、やはりそれぞれに微妙な味わいの違いがあることに気づきます。雅明さんはまさに円熟の極みといった堂々とした押し出し、対して優人さんは、若者ならではの独特のビート感で、時折ハッとさせられるような時間を作ってくれたりしています。
2曲目のハ長調の協奏曲BWV1061は、最初から2台のチェンバロのために作られたもののようですね。圧巻は最後の楽章のフーガです。最初にソリストがたった一人でフーガを演奏、それがしばらく続いたときに、さらにもう一人が別のフーガを加えてきて、もういったい何声部あるのかわからなくなるほどの複雑な世界が出来上がったところに、今度はヴァイオリンなどが乱入してくるという、まるでジャズのセッションのようなエキサイティングなバトルが繰り広げられます。ここでも鈴木親子は、まるでお互いのフレーズを見極めた上で、さらに自分らしいフレーズを重ねようとしているように聴こえます。
3曲目は、「序曲(いわゆる管弦楽組曲)第1番」として知られているBWV1066の組曲を、優人さんが2台のチェンバロのために編曲したものです。これこそが、このアルバムの白眉、豊かに装飾を施されたチェンバロによって、音楽は見事にフランス風のギャラントな姿を現し、オリジナルのオーケストラ版からは味わうことのできない自発的な音楽を堪能できます(編曲のギャラはいくら?)。メヌエットなどのかわいらしい曲の時にはそれがさらにくっきりと聴こえてきます。
そして、最後は元のオーボエとヴァイオリンのための協奏曲として復元されて演奏されることの多い、BWV1060の協奏曲です。これも聴きものは第2楽章、本来は異なる楽器の掛け合いを、いかにチェンバロだけで違いを出そうとしているかを堪能してみましょう。もしかしたら、スピーカーで聴くよりも、高性能のヘッドフォンで聴いた方が、より定位や細かいニュアンスが感じられるのではないでしょうか。

SACD Artwork © BIS Records AB
by jurassic_oyaji | 2014-06-19 19:33 | オーケストラ | Comments(0)